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家庭環境を言い訳に、自分に制限をかけていた


私が自分にかけていた「制限」

週末に、NETFLIXで「極悪女王」を見た。プロレスラーのダンプ松本さんの半生を描いたドラマである。
めちゃくちゃ面白かったのだが、一番すっきりしたのが、まだプロレスラーになる前のダンプ松本さんがダメな父親(これがまた想像を絶するクソ親父)をぶっ飛ばすシーンである。かなり安普請の家のようで、ぶっ飛ばされた父親が壁にぶつかると家の外壁が崩れ、父親は屋外に転がってしまった。
それを見て、
「あー、私も生前の親父をあのくらいぶっ飛ばしたかったわ」
と割と本気で思ったのであった。

何度も書いているが、学生時代、我が家はめちゃくちゃだった。
両親は事業にしているのに手を打たずに借金を重ね、しかるべき努力をせずに神頼みし、借金取りに追われて自己破産し、私が高校に入ってすぐに母親は亡くなり、残された父親は家で酒を飲み、ご近所から白い目で見られていた。

それでも、母親は私が県で一番の進学校に入学すること、大学に行くことを望んでいた。
子供にそんな未来を望むのであれば、なぜあんな生き方をしたのか問いただしてやりたいが、私にとって、その高校に入ることは難しくなかった。
高校では見事に落ちこぼれたが、ただ、これは家庭環境のせいかはわからない。家がまともであっても、私のことだから、一度は落ちこぼれていた可能性は高い。

それでもどうにか大学に入学し、やがて就職活動の時期を迎えるのだが、私は就活の時期、いや、もっと前からおかしな推論(という名の思い込み)をしていた。

「我が家は家庭事情がヤバいから、大手のいい会社には入れないかもしれない。家庭環境を調べられたら一発でアウトだ」

「それでも、放送部であれだけの実績があるのだから、マスコミであれば実力でどうにかなるのではないか」

当時の私に言いたい。
きみの推論は、どちらも間違っている(爆)。

私の就活の時期から「面接で家族のことを聞いてはならない」という話があったし、私も聞かれたことはなかった。
あと、高校の放送部で全国大会に行けたくらいで、NHKが採用してくれるはずがない(苦笑)。あと、きみが言うように、大手企業が家庭環境を重視するのであれば、大手マスコミだって同じはずである。

実際の就職活動の結果は、大手からも、そうでない会社からも内定をもらった。
入社することになる外資系メーカーの試験では、最初に提出したエントリーシートに家族構成を書いた。父親は高齢で無職だし、すでにいない母親の名前は書けなかったが、そのことを突っ込まれることはなかった。
当時の面接官には、私くらいの年齢の人もいたと思う。
この年齢になって思うが、いまの私が採用担当者で、そんな就活生のエントリーシートを見る機会があっても、変に勘ぐったりはしない。
「お父様は定年退職されて、お母様は早くに亡くなられたのかな?本人が話したいことでもないだろうから、触れないでおこう」
と思うだけである。
本人の人格、能力とは関係ないところだしね。

それから約20年経ち、新卒でマスコミではなく、メーカーに入ってよかったと思っている。
もっと早くにマスコミにはあまり興味がないことに気づき、いろいろ調べたり、業界研究をしていれば、もっと可能性が広がったのではないかと思う。
そうしなかったのは単なる怠慢と、あとは諦めの気持ちがあったのではないかと思う。
いわゆる「いい大学」には入った。でも、世の中は氷河期。そのうえ、私には家庭というハンデがある。
いわゆる大企業などの、世の中の「王道」は歩けないのではないか?という諦めである(繰り返しになるが、なぜマスコミだけは例外だと思っていたのだ?)。

また、結婚に対する諦めもあった。相手の男性も、その親御さんも、あの父親を見たらびっくりするに違いないと思っていた。
私は高校まで彼氏はいなくて、大学で初めて彼氏ができたので、地元にいる父親の存在は隠し通すことができた。卒業して間もなく亡くなったので、その後は隠す必要もなくなった。それはある意味、幸せなことだったと思う。

なお、父親本人も、彼の長姉(私の伯母)に
「僕がこんなだから、娘たちが縁遠くならないか…」
と言っていたらしい。
「そう思うのだったら、どうしてこれまでまともな生き方をしてこなかったのだ?娘たちのことを思うのであれば、どうして金もないのに酒や煙草をやめなかった?どんな仕事でもいいから働きに行くべきだったんじゃないか?」
と、ダンプ松本並みのパワーでぶっ飛ばしてやりたくなる。
ついでにダンプ松本みたいにパイプ椅子で殴り、チェーンやハサミで攻撃してやりたくなる。
長姉は優しいので慰めの言葉を言ったのだろうが、次姉だったら、
「そう思うならしゃんとしろ!働きに行くとか努力しろ!」
と叱られたに違いない。
まあ、あいつは慰めてほしいから、優しい姉に嘆いただけだよな。
少しでも状況を良くするために努力したり、他人に頭を下げるなんて絶対にしたくないもんね。
ダンプ松本の父親よりひどいかもしれない。
ボコボコにしてやりたいので、今週末にでも夢に出てきてほしい。悪役メイクでチェーンとハサミを準備して待っている。


「制限」を外すための努力すらしなかった

この年になると、世の中にはいろいろな人がいることに気づく。私と同じか、私より大変な家庭で育っても、ちゃんと活躍している人はたくさんいる。
スポーツ、芸能のように「家庭環境に関係なく、圧倒的な努力と才能が必要な仕事」はもちろんのこと、私が「私のような家の子には無理」と諦めたような大手企業に就職して長く活躍している人もいる。

私の「制限」は、家庭環境ではなかった。努力と行動力の不足である。
「家庭環境は良くないけど、これだけ頑張ったから、何らかの道は開けるだろう」
と言えるくらい、努力すればよかったのだ。
まず大学の学部選択からしくじったし、大学入学後はもっと勉強すべきだった。例えば、在学中にTOEIC900点をとるくらい、英語を頑張るべきだった。
家庭環境で一般企業から弾かれると思うのであれば、国家公務員試験や司法試験に受かるくらい勉強すればよかったのだ。
私はそういう努力をしなかった。
さらに、思い込みに反して、大手企業に入社できたものの、ここでも努力せずに不満を募らせて3年以内に辞めたダメ人間である。
その後、また大手企業にチャンスをもらえたものの…長くなるのでこのへんにしておくが、私もなかなかのダメ人間であった。

また、家庭環境が理由で就職できるか不安ならば、大学の教授にでも、就職課にでも、相談してみればよかった。
だが、私は自分の家庭環境を他人に話したくなかった。恥ずかしいことだと思っていた。
それならそれで、事情を知っている親戚の叔父さんたちに相談すればよかったのに、といまとなっては思う。

一番悪いのは、こういう「制限」を外す努力をしなかった自分だ。

だが一方で、自分が望んで子供を持ったのであれば、親は子供にこんな思いをさせないように頑張るべきだと思う。
これからの世の中に、そんな思いをする子供が現れなければいいと思う。
まだ20そこそこの若者が自分の家庭環境を恥じ、将来を諦めるなんて、あまりに悲しいと思うのだ。



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