それって私のせいなの?と思った話
「他人のせい」に味をしめた和香子さん
小学1年のクラスメイトに、和香子さん(仮名)という女の子がいた。背が高く、おとなしい女の子だと思ったが、それは見かけだけの話。なかなか厄介な人物だった。
2年生のある日、彼女と私が喧嘩になった。理由はたいしたことではない。お互いの会話の中で、彼女の気に食わない言葉があったのだろう。売り言葉に買い言葉だったと思うが、和香子さんは「そこまで言うほどのこと?」と思うくらい「傷ついた」と連発して被害者ぶり、クラスの活発な女の子たちに泣きながら訴えた。この子たちは和香子さんの言い分を完全に信じ、私を糾弾した。その中の1人は、帰り道に私を追いかけてきて、髪の毛を引っ張ったり、身体的な攻撃を加えた。
それを見ていたクラスメイトが、
「もうやめなよ。あんずさん、泣きそうだよ」
と止めたところ、
「あんずさんは和香子さんを泣かせたから、このくらいされてもいいんだ」
と言った。
この子はただ暴力が振るいたいだけの子だった。
私が育った九州の田舎の無法地帯には、こういうヤツがたまにいた。どうして両親がわざわざ見ず知らずの隣県に来て、ここに居を構えたのか、事業がうまくいかなくなってもこの土地にこだわり続けたのか、いまだに理解に苦しんでいる。
話がずれたが、この出来事をきっかけに、和香子さんは「あんずのせいにすれば、私はみんなに同情してもらえる」と味をしめたのかもしれない。
6年生でまた同じクラスになったとき、和香子さんは、私だけを下に見るような発言、態度を繰り返した。私はそれが不愉快だった。
だが、彼女を不愉快に思っているのは私だけではなかった。クラスの約半分が呼ばれたある女の子の誕生日会に、主役と同じグループだった彼女が呼ばれないことがあった。招待された別のグループの子、隣のクラスの子の中に「和香子さんが来るなら、私は行きたくない」と言った子が数人いたのだ。なお、私はそんなことは言っていない。
そんなこともあり、彼女は少しクラスで浮くような感じになった。
そのとき、彼女はいろんな人に、
「あんずさんが私のことを嫌いだから、私は外されている」
と話していたらしい。
たしかに私は彼女の見下した言動にいらついて悪態をついたことはあるが、彼女が仲間外れにされるよう周囲を扇動するようなことはしていない。私は人望も発言力もないから、私が言っても誰も乗ってはくれない。
それから間もなく、私はグループを抜け、他の子たちと仲良くするようになった。私がグループからいなくなったあとも、彼女はグループに馴染んではいなかった。
あまりにもアクロバティックなエクストリーム他責
中学に入り、私は彼女とは別のクラスになったが、彼女を含む小学校の仲間との交流は続いていた。彼女は、小学校で外されていたのは私のせいではないと気づいたのか、もうそのことを言うことはなかった。中学では新しい友達もできて、心機一転できたのであろう。
しかし、今度は「成績が良くない」という現実に直面し、ストレスを感じたようだ。「小学2年の出来事」を持ち出し、私を責め始めた。
小学2年のある日、担任のおばあちゃん先生が、
「みんな、どこの高校に行きたいの?」
と聞いた。私の後ろの席にいた和香子さんが、小声で
「A高校」
と言った。A高校は県立の進学校である。
先生に聞こえるほどの大きな声ではなかったため、先生には聞こえなかったようだ。
先生は、なぜか私に向かって
「あんずさん、どこに行きたいの?」
と聞いた。私は当時、クラスで1番か2番目に勉強ができたので、賢げな言葉を期待したのであろう。私は、
「A高校」
と答えた。
和香子さんのマネをしたわけではない。私は高校の名前をA高校と、あと1つくらいしか知らなかったのだ。
和香子さんはこの出来事を持ち出し、
「あなた、あのとき、私がA高校と言ったのが聞こえたから、A高校って言ったんでしょう?」
と何度も詰ってきた。
和香子さんは、自分がA高校に行くのを邪魔されたような気分になったのかもしれないが、和香子さんは私一人がA高校を受けないくらいでA高校に行けるような「惜しい成績」ではなかった。公立中学で上位半分に入っていたかすら怪しいと思う。
一方、私は入学後最初のテストで上位1割に入っていた。小学校時代に私をやや下に見た発言を繰り返した和香子さんは、現実を思い知り、やり場のない怒りを私にぶつけたのかもしれない。そこで努力をせず、
「私の成績が悪いのは、あのときあなたが私のマネをしてA高校に行きたいと言ったからだ!」
と他人に怒りをぶつけても、彼女の成績が上がることはない。
私は1年の1学期に引っ越したので、その後、彼女が学校でどうしていたかはわからない。その後も成績や友達関係について納得いかないことはあったと思うが、私がいなくなり、誰のせいにしたのだろうか。友達関係はともかく、成績については誰かのせいにしてもどうにもならないのだが、他責思考が行き過ぎると、自分の言い分がおかしいことにすら気づかなくなる。かつての私もそうだった。
数年後、私はA高校、彼女はそれより偏差値が30近く低い私立高校に進学した。
そのとき、彼女はどう思っただろうか?また小学2年の出来事を思い出して私を恨んだのであろうか?
人生、予定通りにいかないことはたくさんある。高校受験で志望校のランクを下げた人はたくさんいるだろう。そんな中で、当初の希望に近いレベルの学校に合格できた人は、自分の現実を受け入れ、他責せずに頑張った人たちだと思うのだ。