祖母の横顔
皆さんは、絵を描く事は好きですか?
私は、上手くはないですが
絵を描く事は好きです。
実家は自営業で、
父も母も遅くまで働いていたので
私は、自然と祖母と過ごす時間が多く
夏休みになると、朝仕事に行く前に母が
配達された新聞の間に挟まれた広告の中から
裏に何も印刷されていない「白い」ものを
数枚、ちゃぶ台に用意してくれていました。
私は、日中の暇な時に
その裏が白い広告に
鉛筆やボールペン、マジック等で
落書きをしていました。
描くものは、
当時、実家にいた犬だったり
流行っていたキャラクターや
その辺の風景だったり
「へのへのもへじ」だったり。
夜になって、
その落書きを見て、母が
「うんうん、結構描けてるよ。」
と、疲れた表情を
ゆるませて笑ってくれる事がうれしくて、
また、次の日
絵になり切れない
「落書き」をせっせと描いていました。
そんなある日、
祖母の横顔が気になりました。
漬物をつける時の横顔
料理をしている時の横顔
畑仕事をしている時の横顔
縫物をしている時の横顔
仏壇に向かってお経を唱えている時の横顔
テレビを真剣に見る時の横顔
ラジオに目を閉じて聴き入っている時の横顔
「綺麗だなぁ…。」
年齢に相応にしわもあり
白髪もありましたが
人が何かに夢中になっている横顔って
こんなに綺麗なものなんだ…と
子供心に思い
その日の午後は小学校のプールから帰ると
蚊取り線香を焚いている縁側で
犬と扇風機にあたりながら
祖母の横顔を一生懸命に描いていました。
そして、夜になって皆にお披露目すると…
祖母が一番に
「これ?私かい?魔女みたいじゃ。」
と、大笑いしたんですね。
確かに…子供なので
見た記憶のまま
素直に、ほうれい線も
おでこに刻まれたしわも
祖母の高くちょっと大きい鼻も
くっきりと描いていたんですよね。
母は、ちょっと戸惑いながら
「よく描いてると思うよ。」
と、気を遣い苦笑いしている所へ
父が帰宅し、なんだ?と、その落書きを手に取って
「上手いのぉ!おばあちゃんそっくりに描いとる!」
その一言で、兄がお茶を吹き出し
母は、あらあらと雑巾を取りに行き
寝ていた犬は、その騒動で起きてキョロキョロ。
父の笑いが止まらない中
祖母が
「ありがとうねぇ。
誰かに自分を
描いてもらう事がある思わんかった。
それが、あんたでよかった。
大事にするけぇねぇ。」
一等優しく笑ってくれたっけ。
私が成人してから、
祖母は天国へ旅立ちましたが
皆で遺品整理をしている時
その落書きが、祖母のバックから
色あせてボロボロになって出てきたんですよ。
本当に大切にしてくれていたんだ…。
ありがとう、おばあちゃん。
その夜、庭の隅っこで
二代目の実家の犬に見守られながら
その絵と「ありがとう」の言葉を書いたメモと
一緒に燃やしました。
あちらで、おばあちゃんより
随分先に旅立ったおじいちゃんと
ふたりで見て笑ってくれたらいいなぁ。
おばあちゃん、
相変わらず落書きから卒業できていませんが
これも、自分らしさなのかなぁ、と思って
今でも時折描いていますよ。