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イギリス国鉄の食堂車記号について軽く

多分この記事の前編

ということでお次は食堂車…というと食堂車なんてそんな種類あるんかいなとなるのはごく自然な疑問、まああるんですけどね。なお今回についても対象とするのはマーク1以降の制式客車、かつ国鉄時代のみとしており民営化後および旧私鉄の客車はこの例に限らない場合もある。

1.まず覚えておくべきポイント

イギリス国鉄の食堂車記号を見るうえで知っておくべきポイントがあるので、まずはそれを押さえておきたい。
ⅰ:食堂車にも等級がある
ⅱ:キッチンがある車両、ない車両、全部キッチンの車両がある

ⅰ:食堂車にも等級がある
早速馴染みのないポイントだが、1等客向けの食堂と3(→2)等客向けの食堂が分かれているようなケースが多く見受けられた。そのためほとんど同じ作りをしているが利用客の等級により異なる記号が付き、当然運用も区別されるという日本の感覚ではなかなか分かりにくい運用がされていた。そうなると当然「食堂車の設備のない等級の乗客はどうすればいいのか」という疑問が湧いてくるが、その答えがⅱにも関わってくる。
お察しの通りケータリングサービスは採算が取れないものというのは洋の東西を問わず、イギリスでも国鉄時代を通してサービスは簡略的なものに変わっていった。そのため、等級をしっかりと分けた多様な食堂車が製造されたのは1960年代までに製造されたマーク1客車のみでそれ以降はより簡易的なビュッフェ車両が主体になっていく。

ちなみに今回は国鉄時代の制式客車をターゲットとするため参考程度とするが、私鉄時代には中央部にキッチンを設置してその前後に1等向けと3等向けの食堂をそれぞれ配したような車両もいた。当時のイギリスの鉄道における階級意識の強さを思わせる。

ⅱ:キッチンがある車両、ない車両、全部キッチンの車両がある
日本における食堂車というとおおむね車内の1/3程度を割いてキッチンを設え、残ったスペースを食堂とするようなものがほとんどだろう。ところがイギリスの客車においては私鉄時代から多様な食堂車があり、もちろん日本の食堂車に近いような構造の車両もあるが、1両全てが食堂で占められていてキッチンのない車両もあればキッチンで埋め尽くされた車両がある。これらを必要に応じて組み合わせ、場合によっては通常の座席車を食堂としてその列車に必要なケータリングサービスを提供できるようにしていたのである。

そのため日本で有名なところでは「フライング・スコッツマン」やそれと対を成すような「ロイヤル・スコット(ロンドン・ユーストン駅からブリテン島西部をグラスゴーまで走った列車)」のような長距離優等列車の場合、1等客向け食堂車(キッチンなし)とキッチン車両、そして2等客向け食堂車(キッチンなし)の3両体制で使用されているようなことも多かった。特に高額な料金を請求するオリエント急行のようなクルーズ列車ではなく、ビジネス利用などが主体の特急列車相当の列車でこのような体制が取られていたことは驚くばかり。

2.食堂車の記号について

…と長い前置きを終えて本編、食堂車の記号について説明していきたい。
まず食堂車として使用される車両には共通のプレフィックスである"R"が付与されている(上述の「一般の座席車を食堂にする」場合は除外)。
次いで等級が設定される。座席車と同じで"F"が1等で"T"が1956年までの3等となり"S"がそれ以降の2等、1956年までの古い意味の2等向けの食堂車は無かったので食堂車でSが付くのは旧3等のもののみとなる。"C"は合造車がなかったので国鉄制式客車には存在せず、"U"…必要に応じて1等と(3→)2等どちらでも使える車両が存在した。
そして食堂の設備についての記号、ここについては座席車とは同じ文字で異なる意味のものが出てくるので注意が必要。

・B:ビュッフェ(立食)設備がある車両、日本でもイメージされるような「ビュッフェ」を備えた車両もあるがキッチンの脇に立食コーナーのような場所が備え付けられているという例も多数存在した。

・K:大型のキッチンがある車両、全室キッチンの車両もあれば類似の車両より大型という程度のものもあり、ややこしい。

・O:キッチンなしの車両、車内のレイアウトについては基本的に開放座席車のものに近い。隣接するキッチン付きの食堂車から料理を持ってくる前提の車両となっている。

その他、上記に当てはまらない記号もあるが後述の車種解説で個別に記載したほうが分かりやすいためここでは割愛とする。

3.マーク1客車での主要車種について

ⅰ:キッチンと食堂がある車両
RB(Restaurant Buffet):キッチンとビュッフェ、そして23名利用可能な食卓がある車両で両数としては最も多い。後年には内装リニューアルによりRBR(Restaurant Buffet Refurbished)と呼び名を改めた車両もいる。
RF(Restaurant First with Kitchen):キッチンと17/24名利用可能な1等客向けの食卓がある車両、西部地域向けに5両が製造されたタイプ(食堂定員17)とロンドンミッドランド地域にその後37両が製造されたタイプ(食堂定員24)ではほぼ別物と考えて良い。前者は日本で言えばオシ16のようなRE(Griddle Car)に改造され、後者は次に述べるRBKに改造されている。
RBK(Restaurant Buffet):キッチンとビュッフェ、そして12名利用可能な食卓がある車両。前述のRBよりもキッチンが大きく、隣接する車両に配膳する前提ならではの構造と言えるか。新造された車両はなく、全てRFから改造した車両である。
RU(Restaurant Unclassified):キッチンと29/33名利用可能な食卓がある車両、日本での一般的な食堂車のイメージに最も近いと思われる。後年にリニューアル・ビュッフェカウンター設置によりRBRに合流した車両もいる。
RMB(Open Third/Second with Miniature Buffet):TSO客車の中央部にビュッフェを設置して軽食を提供した車両。座席定員は通常のTSOから5区画分20名減少した44名で、急行型電車のビュッフェ車両に雰囲気が近くそこから更に客室を多くしたような印象のもの。特急列車相当の都市間優等列車に組み込まれることはあまりなく、週末のみ運転の臨時列車や比較的近距離あるいはローカル列車に組み込まれた例が多い。

ⅱ:食堂のみの車両
RFO(Restaurant First):42名利用可能な1等客向けの食卓がある車両、各地域の看板列車向けに使用されたが少数の製造のみで、1等客向けの食堂は多く通常の1等開放座席車が使われていた。構造は1等開放座席車と非常に近く、食卓と座席が食堂として使われているものになっている程度の違い。
RTO/RSO(Restaurant Third/Second):48名利用可能な(3→)2等客向けの食卓がある車両、元々3等車だったが1956年の等級改定で2等車に変更。RFOと同じく各地域に投入されたが、製造はやはり少数。構造はRFOと同じく(3→)2等開放座席車とほぼ同じで、初期の14両は食堂としての座席が使用されたようだが後年製造のスコットランド向けの4両は通常の座席車と同じ座席に変わっている。また1976年に1等開放座席車を改造して13両が編入され短期間使用された。
RUO(Unclassified Restaurant):48名利用可能な等級分けされていない食卓がある車両、ほとんど東部地域に配備されてキングスクロス駅から発着する列車に使用されていた。構造はほぼ上記RSOと同じく、2等開放座席車と同様のレイアウトに食堂としてのテーブルと椅子が設置されていた。

ⅲ:キッチンのみの車両
RK(Kitchen Car):全室がキッチン及び配膳台(+スタッフ向けの設備)で構成されており、前後の車両に料理を供給するための車両。全室が旅客に供される設備ではないためか、番号も旅客車の番号ではなく荷物車や郵便車と同じ付番規則に則って付番されている。初期製造の車両は各地域に配備されたが残りの約30両は全てロンドンミッドランド地域に配備され殆どは転属しなかった。また車体腐食や合理化などの影響もあり短命な車両が多く、製造から6年で廃車解体になってしまった車両もいた。
RKB(Buffet/Kitchen):やはり車内の大半をキッチンと配膳台が占める車両だが、コンパクトながらバー及びビュッフェがある。旅客が利用するための区画があると判断されたためか上記のRKとは異なり客車としての付番がなされている。長距離を走る列車が多いロンドンミッドランド地域及び東部地域に配備され、こちらは1980年代まで残った車両が多かった。

以上の他にRG(Griddle Car)やBooth car, Barといった試作的な車両が存在したが、両数が少ない上に運用も限定的なものに終止したので割愛する。

4.マーク2客車での車種について

まず最初に、マーク2客車ではロンドンからリヴァプール・マンチェスターを結んだプルマン列車用の車両を除いて供食設備を持った車両は新造されていない。上記のマーク1客車で必要な車種が一揃い製造され、所要数が満たされたことが主要因で後年に少数が改造されたに留まる。

RFB(Buffet Open First):1等開放座席車(FO)を1980年代末から'90年代初頭に改造したもので、車内1/3程度をビュッフェに改造したもの。フルサイズの食堂車を使用するまでもない地方間路線向けに改造された。
RSS(Restaurant Self Service):マーク2Fの2等開放座席車を改造した試作的なビュッフェ車両。セルフサービスで利用可能なビュッフェが設置されたが、短期間で北アイルランド鉄道に輸出されている。
RLO(Sleeper Reception Car):1980年代末にマーク2Fの開放座席車を改造したもので、その名の通り寝台列車のロビーカーとも言える車両。ラウンジと電話室、また軽食を用意できるカウンターが設置されておりロンドンからスコットランドを結ぶ寝台列車に主に使用された。近年にマーク5客車に置き換えられるまでカレドニアン・スリーパーで使用されていたので利用された方もいらっしゃるのではないだろうか。
RMBT(Miniature Buffer Car):マーク2DのTSOT(車販準備室レベルのビュッフェが設置された2等開放座席車)を改造したもので、それより座席1区画分大きなビュッフェがある。民営化後に座席部分がファーストに格上げされている。

5.マーク3,4客車での主要車種について(機関車牽引型に限る)

この項目ではマーク3とマーク4客車の供食設備をそなえた車両について概説する。なお、マーク3客車は特に初期HST含め複雑なバージョンがあったがここでは機関車牽引型の代表的な車種に絞る。

ⅰ:マーク3客車
RUB/RFB(Restaurant Buffet with Kitchen):17席の座席があるビュッフェ車両で当初は座席も等級分けされていないものだったが、後に1等席として指定されている。なおマーク3の機関車牽引型はウエスト・コースト本線に投入されたが、マーク3投入直後は座席車がマーク3の編成でもマーク1の食堂車が使用されていた。
RFM(Restaurant Buffet First(Modular)):24席の座席があるビュッフェ車両でケータリングの効率化のために地上のセントラルキッチンで調製した食事を航空機に近いカートを使用して提供する供食スタイルに適した姿に改造したもの。上記RFB車両のほか、通常のマーク3の1等開放座席車(FO)やHSTの食堂車を改造して大幅な増備を行いマーク1の食堂車を置き換えている。

ⅱ:マーク4客車
RFM(Restaurant Buffet First(Modular)):20席の座席があるビュッフェ車両で航空機に近いカートを使用した供食スタイルに適したもの。民営化後にファーストクラスの座席数を増やすためこの車両はスタンダードクラスに格下げされ、代わりに2等車が1編成あたり1両1等車に格上げされている。

以上、特に試作的な少数派についてはアクセスできる資料も少なく大まかな知識の覚え書きに留まってしまっているきらいがあるが皆様の参考になれば幸いである。複雑で魅力的なイギリス客車、その魅力に触れる機会になればと願い、今回も筆を置くこととする。

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