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イギリス国鉄の座席車記号について軽く
イギリス国鉄の座席車について、記号の覚え書きを軽く。
なお、今回の対象とするのはマーク1以降の制式客車、かつ国鉄時代のみとしており民営化後および旧私鉄の客車はこの例に限らない場合もある。また本記事では座席車の記号のみについて取り上げる(その他は気が向いたら…)。
1.どのような点に着目するか
当然ながらイギリス国鉄の客車記号は日本のものとは大幅に異なる。イギリス国鉄で新製された客車は大きく分けて
1.私鉄時代の設計で引き続き増備された車両(~1950年代前半)
2.マーク1客車(1950年代前半~1960年代中盤)
3.マーク2客車(1960年代中盤~1970年代中盤)
4.マーク3客車(1970年代中盤~1980年代末)
5.マーク4客車(1980年代末~1990年代前半)
(+マーク5客車:1990年代に構想されたが頓挫)
があり、客車記号は概ね「マークxの○○」というように使用される。
マーク1のSK(Mark 1 SK)やマーク3AのTSO(Mark 3A TSO)といったようになるというわけだ。イギリス国鉄の客車記号では重量は記載されない。
2.客車サフィックスについて
マーク1、マーク4客車はそのままだが、マーク2およびマーク3客車については無印の基本型からいくつか変更を伴ったバージョンが造られており、それぞれサフィックスが付与されている。
・マーク2客車のサフィックス
ⅰ:(無印/資料によってはMark 2Zとも)
→真空ブレーキを装備した初期型で少数が製造された。
ⅱ:A型
→空気ブレーキを採用した基本型。
ⅲ:B型
→ドア構造を改良し、マーク1以来の中扉を廃して前後2扉とした。
ⅳ:C型
→冷房準備(実現せず)車で、ここまでの車両は蒸気暖房と電気暖房装備。
ⅴ:D型
→固定窓となり冷房を搭載し、以降の車両は電気暖房のみ。
ⅵ:E型
→トイレの構造を見直し荷物置き場を設置。
ⅶ:F型
→HSTに準じて改良された内装を導入。
・マーク3客車のサフィックス
ⅰ:(無印)
→HST用車両で、車端にバッファがない。
ⅱ:A型
→機関車牽引用の基本型車両。
ⅲ:B型
→照明・座席を改良した車両。
3.座席車の記号について
座席車の記号は等級および構造を示すものが基本となり、その他前後に必要に応じ補助記号が入るものとなる。
例)
FK…First Corridor ;一等で個室タイプ
TSO…Tourist Second Open ;二等で高キャパシティの開放タイプ
CL…Lavatory Composite ;トイレが設置された近郊タイプ
記号の順序として先に来る等級を先に解説するのが筋ではあろうが、日本のそれと比較的似ているため受け入れやすい等級と比べて構造の方が馴染みがなく、以後の理解に差し支える可能性が高いため先述することにする。
ⅰ:構造
K…個室タイプ
→Corridor Coachの意味で、車両間の貫通路が設置されており車内では片方の側面に通路を寄せたコンパートメント車両となる。「ハリー・ポッター」シリーズの「ホグワーツ特急」の車両と言えば鉄道に詳しくない人でも通じるかもしれない。Corridorであれば"C"にも思えるが、後述する等級記号と被るためか"K"を採用している。
マーク1客車では座席車の主流だったが、マーク2客車では新製時には一部の一等車のみに絞られ、マーク3客車以降では完全に無くなっている。ただし後年の格下げによってマーク2でも個室タイプの二等車が実在した。
三(→二)等車においては横に3あるいは4人掛けの座席があるため1室あたり定員6あるいは8名となり、一等車は横3人掛け座席で1室あたり6名定員。前者で異なる定員なのは概ねロンドンから北に向かう路線は長距離運用が多いため快適性を重視し、南・西に向かう路線はリゾート需要が高いため収容力を優先したもの。
今回割愛の寝台車についてもイギリス国鉄の寝台車は全車両この個室タイプで、日本などで見られたプルマン式あるいはツーリスト式は存在しない。
O…開放タイプ
→おそらく皆様お馴染みの車両間の貫通路が設置されており中央部に通路があり、両サイドに座席が配置されたタイプ。Openの意味で、マーク1客車では比較的短距離の運用向けの車両あるいは食堂として使用することを想定した少数派だったが世代が進むに連れ主力となり、マーク2のE型以降は全てこの開放タイプとなっている。
三(→二)等車においては多くは2-2アブレストの向かい合わせとなっており、食堂利用を念頭に置いた一部のみ1-2アブレストの向かい合わせとなっている。一等車および旧二等車(下記ボート・トレイン用)は全て1-2アブレストの向かい合わせとなっている。
(無印)…近郊タイプ
都市近郊あるいは短距離のローカル支線で使用されたタイプで、このタイプは車両間に貫通路がない。それどころか殆どの場合は車両側面のドアから直接出入りするのみで前後の移動も不可能になっている。「きかんしゃトーマス」のアニーやクララベルがこれに近い構造だ。
マーク1客車で製造されたが、製造から10年程度で使用する路線あるいは地元の小駅がビーチング・アックス(イギリス国鉄の経営改善のためのローカル線整理;イギリス版赤字83線事業)で廃止となったり気動車に置き換えられて一部の事業用に転用された車両を除いてほとんどが廃車あるいは車運車への改造の憂き目に遭っている。ただし運の良い一部車両が保存されたり保存鉄道に引き取られたため、今でも姿を見ることは難しくない。
車内に通路がない基本タイプで三(→二)等室においては6人掛け座席の向かい合わせ、一等室は4人掛け座席の向かい合わせとなっている。
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ⅱ:等級
T…三等車
→基本となる等級だが、1956年に3等級制から2等級制になったため消滅。制式客車ではマーク1のみが使用(1956年までに3等車として製造された車両は下記"S;二等車"に改番)。
個室タイプと開放タイプ、近郊タイプの3種が存在。
S…二等車
→1956年以降の基本等級だが、それ以前からボート・トレイン(;客船との接続を前提とした列車)に使用される客車に限って採用されていた。ボート・トレイン用車両は1959年に下記"F"に改番。
1988年以降は呼称がSecondからStandardに変わったが、これに伴う記号の変化はない。三等車由来の車両は上記のまま個室タイプと開放タイプ、近郊タイプの3種があるが、元ボート・トレインは開放タイプのみ。
F…一等車
→上級クラスで、1956年の等級変更に際しボート・トレイン用の二等車を取り込んだものの変化はなし。
個室タイプと開放タイプがあるが、近郊タイプは全室一等車の車両が存在しない。
C…合造車
→一等室と三(→二)等室の合造車両を指す、ボート・トレイン用の二等室は前述の通り特殊用途なのでここには関係していない。
個室タイプと開放タイプ、近郊タイプの3種が存在するが開放タイプは後年の改造によって登場したもののみ。
U…未分類
→寝台列車の座席車として後年の改造で登場。
ⅲ:プレフィックス
上記の等級・構造記号の上につける記号として以下のものがある(代表的な例に限定)。
B…緩急車
→車掌室およびブレーキが装備されており、ほぼ全て手荷物室が用意されている。個室タイプと開放タイプ、近郊タイプ全て存在。
D…運転室
→プッシュプル運転用に運転室を取り付けた客車、緩急車から後天的に改造したもの。国鉄時代にはマーク2FのBSOから改造された車両が存在。
実例:マーク2F DBSO ;マーク2F客車で運転室付きの二等緩急車。
T…高キャパシティの三(→二)等車
→開放タイプの三(→二)等車で、2-2アブレストを意味するもの(プレフィックスの場合等級には関係なく、TTOあるいはTSOとなる)。
ただし緩急車については2-2アブレストでも何故かこの記号がなく、BSOの場合は全車両が高キャパシティタイプの2-2アブレストである。あくまでも食堂利用を念頭に置いた車両(編成中央に組み込まれる前提)との識別ができればそれで良いという意図ではあろうが、慣れていないとややこしい。
実例:TSO(全タイプの客車に実在)
ⅳ:サフィックス
上記の記号の後ろに付与される中で、代表的なものを挙げる。
T…ミニビュッフェ
→やはり等級や座席には無関係(ややこしい…)で、座席1ボックス分の幅を使用した売店設備がある。新製時には無かった仕様で、後年供食設備を見直していく過程の中で従来食堂車や大型のビュッフェ設備を備えた車両の代わりに勢力を増していった。
実例:マーク2D TSOT ;マーク2客車のうち空調付きで、2-2アブレストのミニビュッフェ付き二等車。
L…トイレ(近郊タイプのみ)
→近郊タイプのみ使用されるサフィックスで、個室・開放タイプの場合は原則として全車両にトイレが設置されているためこの記号は必要ない。
トイレ付の車両(および一部のトイレなし車両)については近郊タイプでも主にトイレの利用のために車内の前後移動が可能だが、貫通路は無いためトイレを使用したい場合トイレ付の車両に乗るしか無い。
実例:マーク1 CL ;マーク1客車の近郊タイプで、トイレ付の合造車両。
以上、こだわればキリがないものの入門編として理解を助ける程度のものにはなっただろうか。この記事によってイギリス鉄道の客車の世界に少しでも興味を持っていただければ幸いである。今後もしかしたら続編として補遺や食堂車、寝台車、非旅客用車両やその他について記載したりなどするかもしれない。