日本の空港は「どこ行き」が多いのか
今日は自由研究的なネタ、日本国内の公共用空港は2023年6月現在で97か所あり定期便が就航している空港がほとんどである。
定期便がない空港は
・千歳飛行場(隣接の新千歳空港と一体管制されている)
・大分県央飛行場
・岡南飛行場
・八尾空港
・礼文空港
・佐渡空港
・福井空港
・小値賀空港
・上五島空港
・粟国空港
・慶良間空港
・伊江島空港
・波照間空港
以上13港となっており、うち8港が離島空港となっている。
残り84か所の空港には多かれ少なかれ定期便が就航しているのだが、これらの定期便は多くどこを目指しているのだろうか。
まあ結論から言うとね
今回は確認できる範囲でFlightrader24の"Scheduled Flights"よりnext 7 daysの便数を根拠とし、それがない空港については就航している航空会社の公式サイトより確認した。そのため詳細な数字はあくまでも大まかな参考としていただきたい。
一番目的地とされているのはやはりというか羽田空港、38港(定期便がある空港全体の45%)が羽田便が最も多い空港である。羽田行きが最も多い空港の筆頭は新千歳空港で、週に429便が運航されているとのこと。1日だと平均60便以上が飛んでいるわけだから感覚としては毎時3本程度ということになり、流石かつて世界一の大幹線としか言いようがない。
2位は少し減って福岡空港の392便、百の位が下がっているためだいぶ減った印象を受けるかもしれないが便数で言えば9割を超えている。
3,4位はそれでも週に200便を超える那覇(245便)と伊丹(210便)、特に伊丹は後述する羽田空港が最大目的地「ではない」空港にもかなり大きな影響を及ぼす新幹線の影響をかなり強く受けるはずの立地でありながらこの本数である、太平洋ベルト地帯の需要の莫大さを感じずにはいられない。
そこからは100便を超える鹿児島(154便)、熊本(126便)、宮崎(118便)、広島(112便)という主要地方空港が続く、特に広島空港は何かに付けてアクセス性の悪さが語られるがそれでもこの便数なのは中国地方の大都市の貫禄だろう(岡山空港は70便)。
広島空港から下は大分、長崎、高松、松山、北九州、高知、山口宇部、岡山、小松、徳島と西日本の空港が並ぶ。高知以降の5港は週70便、つまり1日10便程度が就航しているわけで東京への利用が多い空港となるとこの辺りが一つの目安になってくるのではないだろうか。
一方で1日あたり2便以下の空港も3港あり、能登・石見(週14便)と紋別(週7便)が該当する。いずれも定期便はこの羽田便しかない空港である。ちなみに羽田便が1日あたり1~2便の空港は他にも稚内や中標津などがあるが、これらは他方面の便がより多く運航されている。
じゃあ羽田行きがトップじゃない空港は
残り46港は羽田行きがトップ「ではない」空港だ。約55%がこちらに入るのだから、実は日本の空港はこっちの方が数の上では主流なのだ。とはいえ以下に挙げる理由やラインアップを考えると異なる印象を得る方も多いかと思う。どんな空港が羽田行き以外を主力としているのか蘊蓄のネタにしたり、あるいは提供座席数で考えるともっと存在感が大きいのではないかなどと思っていただければ幸いである。
ちなみに羽田空港自身は新千歳便が週に427便で、逆方面とは少し便数に違いがある。おそらくボーイング737などで関西に向かう便があることがこの違いを生み出したのではないだろうか。
1.国際線主体の空港
ここに該当するのは成田空港と関西国際空港、どちらも韓国の仁川国際空港を目的地とする便が最も多く(成田:191便、関空:179便)2022年秋以降の入国規制撤廃以降に両空港を訪れた方であれば多彩な韓国便の多さに圧倒された方も多いのではないだろうか。
2.関東平野の空港
調布空港、茨城空港が該当する。これらから羽田空港に定期便を設定しても実用的な用途での利用はまずありえないだろう。以下3に該当する空港もここに近いかもしれない空港がある。
ちなみに調布空港で一番多いのは新島便(週28便)で、茨城空港は神戸便(週21便)である。
3.鉄道に対して勝ち目がない空港
あらかじめ断っておくが羽田便が無いわけではない他、国際線乗継便などで首都圏への便がある空港も含まれる。もちろん災害時には臨時便の運航もありうる。
ここの筆頭は仙台空港と中部国際空港だろう。どちらも東京から新幹線で概ね1時間半で、空港アクセスを考えると航空機利用はめったに選択肢にあがらない。この2港の最大の目的地は新千歳空港でそれぞれ週132便と102便、その下には伊丹空港を最大の目的地とする新潟(週80便)、青森(週49便)、福島(週38便)、山形(週21便)と続き、次いで福岡空港を主な目的地とする小牧(週35便)、静岡(週28便)があり、その小牧空港を主な目的地とする花巻(週28便)と神戸空港に週14便を飛ばす松本空港などがここに入る。
それにしてもここでは新幹線の恐ろしさがよく分かる。ここに入る10港のうち松本以外の9港は新幹線沿線にある。松本空港も東京都心から特急「あずさ」によって結ばれている他、北陸新幹線の影響も否定できない。この中で唯一まとまった羽田便があるのは青森空港だが、羽田便は週に42便で神戸や米子と同じ程度の本数である。秋田新幹線が盛岡から分岐した先の秋田空港は週63便で、フル規格新幹線の威力をまざまざと見せつけられる比較となっている。
4.離島・コミューター空港
残り31港は離島や短距離便が中心の空港となっており、これが数的主力だ。
特に際立つのは那覇を目的地とする新石垣(週106便)と宮古(週92便)であり、離島路線という言葉から受ける印象と裏腹に複数の航空会社が就航し賑やかな地方幹線として存在感を発揮している。その他那覇行きが多い空港は久米島(週49便)、下地島・与論(どちらも週14便)、南大東(週11便)がある。また数の上では南大東便が週10便の北大東空港も日替わりの三角運航で那覇に戻るのでここに加えても差し支えないだろう。以上7港が那覇を目的地とするか、それに準じた状態になっている。
那覇空港に次いで鹿児島空港も近隣の離島便を多く擁した拠点となっている。奄美(週69便)を筆頭として種子島、徳之島、沖永良部、屋久島、喜界の合計6港が鹿児島空港を最大の目的地としており、この一帯に向かう時には欠かせない存在だ。
その他九州・沖縄の離島路線は福岡空港に向かう対馬(週45便)、天草(週38便)、福江(週31便)、与那国→新石垣(週28便)、壱岐→長崎(週24便)、多良間→宮古(週14便)などがあり、九州・沖縄の合計19港が近隣の大空港に向かっていることになる。
九州・沖縄がここまである一方北海道も注目すべき場所だろう、6港が羽田以外を目的地とする便が多い空港となっている。ANA便で新千歳まで結ばれている女満別(週42便)、中標津(週21便)、稚内(週14便)の他北海道エアシステムによる丘珠→函館(週41便)、利尻→丘珠(週10便)、奥尻→函館(週5便)があるがこちらは道内便のみかそれに近い(厳密には丘珠には三沢便があるが)。
とはいえ離島便である利尻・奥尻や近隣に鉄道路線がない中標津はともかく、女満別や稚内、函館については距離の割に航空が強い。裏を返せばこれらの区間の鉄道にはかなり課題が多いということが浮き彫りになっている。新幹線が建設中の札幌-函館はまだいいものの、稚内へ向かう宗谷本線や女満別を通る石北本線はともすれば路線の存廃というワードすら出かねない路線だ。こういった地域の公共交通をどう構築して運用していくかということは今後より重要なテーマになるだろう。
残り6港のうち5港はわかりやすい、調布起点の新島(週28便)、神津島・三宅島(週21便)、大島(週12便)と出雲行きが週7便の隠岐である。人口が最も多い大島がむしろ便数が少ないが、これは船便が東京都心側の港に近いためにわりあい早く、しかも熱海便も運航されているため航空機を選ぶ人が比較的少ないためだろうか。
最後の1港がキワモノで、週14便が伊丹に飛ぶ但馬空港である。ここは定期便が伊丹便のみで陸続き、しかも近隣の山陰本線豊岡駅や城崎温泉駅はJR西日本の特急列車で大阪、京都へのアクセスも容易なうえにバスも運行されている。伊丹空港での羽田便乗継を全面に打ち出しており、やがては羽田直行便の就航を狙っているということだが現状の運航形態はなんとも不思議な空港だ。
以上、羽田空港に向かう便が一番多く「ない」空港はどのような空港かというのをまとめた。主にあるのは離島空港で、地域的な縁のある人やディープな旅行好き、飛行機好きでもないと降り立たないどころか存在も知らない空港が多いかもしれない。しかしこの記事が読者の皆さんの知的好奇心を満足させる結果になることを願うものだし、更にはこの記事がきっかけになってこれらの空港に行ってみたいという動機になったり、あるいはこれらの路線を支えていく活動などに繋がってくれたら筆者にとって望外の喜びである。