誰からも学べることがある
社会人1年目の頃の話だ。
念願の企業に入社した私は、やる気に満ち溢れ、同期よりいち早く成果を出して、出世をするぞと熱意に燃えていた。
実際、上司や先輩に可愛がられていた自覚もあったし、応えようと精一杯努力していたつもりである。
一方で、のんびりと雑談しながら仕事している他部署の上司や、仕事で使う簡単な計算式も満足に覚えられない同期に呆れ、心の中で冷ややかな眼差しを向けることもあった。
そんなある時、普段全く話す機会がない
部長とすれ違い、声をかけていただいた。
「新入社員、なにか困ってることはない?」
意識高い系になっていた私は聞いた。
「私は出来るだけ早く出世したいです。なので、勿論人より努力をするつもりですが、誰を手本とすると良いでしょうか。」
すると、少し困ったような苦笑いをしたような表情をした部長からこんな答えが返ってきた。
「その質問がまず間違えている。誰から学べて、誰からは学べない、なんてことはない。
誰からだって学べることはある。ただ今の君には見えてないだけ。
優秀な人はもちろん、そうじゃないと思う人でも同じミスをしないよう気をつければ反面教師に出来る。視野を広く持って、沢山吸収しなさい。」
そのあと、頑張ってね、と言って部長は歩き始め、廊下の角で姿が見えなくなった。
ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。
私は気付かぬうちに自分を出来る人間だと自惚れ、出来ない人から学ぶことは無い、と差別していたのかもしれない。
そしてそんな考えを部長は見抜いていたのだろう。
自分の浅はかさが恥ずかしかった。
改めて周りを見回してみると、ヘラヘラしてるように見えた他部署の上司は自分の仕事はとっくに終えた上で指揮を取り、柔らかい雰囲気でよくフォローしていた。
数字が弱い同期は、計算こそ駄目だったものの常に笑顔で、ムードメーカーとして周りから好かれていた。
仕事が遅いパートさんはミスがなかったし、
小さい子供がおり時短勤務の先輩は、職場に差し入れを持ってくる時一言添えたり、任された仕事を諦めたり、誰かに押し付けることはなかった。
誰からも学べることがある。
それからはとにかく人の良いところを探そうと様々な人を観察するようになった。
最近の私は、優しいと言われることが増えた。
あの時あの言葉をもらってから、「誰にでも尊敬できる所がある」と心の底から思えるようになったからだ。
そんな自分のことが、前より少し好きである。
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