曖昧模糊とした世界の中で。

健康診断で定期的な運動をすすめられたので散歩をすることにした。

日中、仕事でパソコンとにらめっこしていて目が疲れたので眼鏡を外して出かける。
眼鏡を外すと乱視のせいでものがぼやけて見える。
暮れなずむ街並みの中、このぼやけた視界に映るものこそが世界の真の姿のようにも思える。

眼鏡やコンタクトレンズをすれば明瞭な視界は手に入る。明瞭な視界こそ唯一、真実を映し出すものと人々は考えるだろう

明瞭な世界への飽くなき渇望はとどまることを知らない。

自分の見える世界を拡張するべく、地球の裏側までインターネットを介して目にすることができる現在。さらには他人の生活の一部さえも覗き見できるため必要以上の明瞭な世界への渇望は異常な欲望にすら思える。

眼鏡を外した曖昧模糊とした世界。
自分の目に映る視覚以外の感覚を駆使して感じる世界を受容してみる。

夕方から夜にかけて散歩をすると視覚が機能しなくなるので嗅覚や触覚が敏感になる。いつもの道が荻原朔太郎の猫町のように不思議な空間に思え、物語の世界に迷い込んだような気分になる。

たまには考えることをひと休みして曖昧模糊とした不確かな世界を感じるのも悪くないだろう。