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アテ木

20年くらい前にNHKのプロジェクトXという番組で薬師寺金堂を再建するドキュメンタリーが放映されていた。

その中で宮大工の棟梁の言葉が今でも印象に残っている。

「建物はよい木ばかりでは建たない。北側で育ったアテというどうしょうもない木がある。しかし日当たりの悪い場所に使うと何百年も我慢する、よい木になる」

木にさまざまな癖があるように、人間にも様々な人がいる。それがうまく組み合わさってこそ、はじめて立派な仕事ができる。

「堂塔の木組みは木の癖組み。木の癖組みは人の心組み」という口伝もある。前段は、木は環境によって癖があるので、それをうまく木組に生かせ、ということである。右ねじれの癖の木と左ねじれの癖の木を組み合わせれば、がっちりとして動かないが、右ねじれ同士だと堂塔もねじれてしまうのである。また後段はそのような木の癖組みは、棟梁一人だけがわかっていてもだめで、すべての大工にわかってもらわなければならない、人の心を組まなくてはならない、というのである。

同じベクトル同士だけではうまくいかない。
例えば、危機に直面した際、いつもと違うと一人が声をあげても凝集性の高い集団では真剣に取り合ってもらえないかもしれない。

また様々な個性をもった人が集まることで、時にぶつかり合うこともあるかもしれないが、自分と異なる考え方や価値観をもつ他者との交流を通じて想像力の幅が広がるのではないのだろうか。

僕たちは皆、一人ひとりがアテ木のような個性をもつ。
同じものを見ていても違った感想を抱くことがあるからこそ、互いの世界観をシェアしていくことで他人の靴を履いてみることができるのだと思う。

おでんの具材のように多様なジャンルの人々がごっちゃ満載になることで良い味が生まれることを期待したい。

参考文献
NHK出版「プロジェクトX⑤そして風が吹いた」幻の金堂 ゼロからの挑戦~薬師寺・鬼の名工と若武者たち~

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竹内康司
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