見出し画像

脳卒中リハビリでEBPは一般的になり得るか?

8月12日(木)から、脳卒中EBPプログラム2021年後期【第2期】の募集が始まりました。

第1期は4コースで開始しましたが、第2期は5コースへ増設しています。

【Evidence Based Practiceコース】
日本語論文や英語論文の探し方・読み方、ランダム化比較試験やシステマティックレビューの批判的吟味の仕方、リハビリテーションの論文を読む上で必要な統計学の知識、検査の指標(MCID、MDC、カットオフなど)を6ヶ月で体系的に学ぶ、療法士さん向けのオンラインの学習プログラムです。

【脳卒中リハビリテーションコース】
脳卒中の運動障害、感覚障害、痙縮などの病態、脳画像のみかた、臨床推論の進め方など、脳卒中リハビリテーションを基本から学びます。患者さんの病態に合わせてリハビリ方法を選択できるようになるために必要な知識をお伝えします。

【上肢の運動障害コース】
リーチ・グラスプ動作の脳科学やバイオメカニクス、Action Research Arm TestやFugl-Meyer Assessmentといった世界基準の評価指標、課題指向型訓練やCI療法など世界的に有効性が認められたリハビリのエビデンスと実際を学びます。

【歩行障害コース】
歩行動作やバランスの脳科学やバイオメカニクス、Functional Ambulation Categoryや6分間歩行試験などの世界基準の評価指標、トレッドミルやバランス練習など世界的に有効性が認められたリハビリのエビデンスと実際を6ヶ月間かけて学ぶ、オンライン学習プログラムです。

【嚥下・高次脳機能コース】
嚥下障害のメカニズムや失語症の脳科学、Penetration-Aspiration ScaleやAachen Aphasia Testなどの評価指標、電気刺激を使った嚥下療法やグループ言語聴覚療法など、世界最先端の言語聴覚療法のエビデンスと実際を学びます。

脳卒中EBPプログラムによって発生した収益は、経費を除いて、脳卒中リハビリテーションにおけるEvidence Based Practice(以下、EBP)発展のために使います。

BRAINはEBPがなるべく早く一般的になるよう、EBPの普及に取り組んでいます。

今回は、なぜEBPが普及する必要があるのか、そもそもEBPってどういうものなのか、といった点について私の意見を話していきたいと思います。

EBPが普及するとリハビリはどう変わるのか?

EBPの進め方として、5つのステップがあります。

1. 患者の臨床問題や疑問点の抽出と定式化(PICOの設定)
2. PICOに基づいた患者の臨床問題や疑問点に関する情報の検索
3. 得られた情報の批判的吟味(critical appraisal)
4. 得られた情報の患者への適用の検討
5. 適用結果の評価

この5つのステップをちゃんと進めていくためには、

臨床疑問をPICO/PECOに直す思考力
情報を検索するためのシステマティックレビューのスキル
バイアスリスクの知識や批判的吟味のスキル
外的妥当性の理解と臨床経験
アウトカムに関する知識

など、いくつかの重要な知識とスキルが必要です。

EBPの話をすると、「ガイドラインとか文献を読んで、リハビリすればいいんでしょ?」と言われることが多いのですが、実際はもっと複雑です。

これらの知識・スキルを獲得した上でEBPが進められるようになると、ざっくりとした説明ですが「患者さんにとって最善のリハビリテーションを選択できる」ようになります。

そして何より、患者さんとしては、セラピストの良し悪しに関係なく身体機能や生活状況が良くなります。

これは大きいメリットですよね。

今、多くの病院や施設では、リハビリプログラムの作成はセラピストの力量やモチベーションに委ねられています。

セラピストガチャ、なんて言う言葉もありますが、セラピストによってリハビリの質が異なっている現状があります。

これは、セラピストの経験に基づいてリハビリプログラムが組まれていたり、プログラムの修正が行われていたりするためです。

セラピストの経験の量や質が一人一人異なるので、提供されるリハビリにばらつきが生まれ、セラピストの良し悪しができてしまうのですね。

一方で、エビデンスに基づいてリハビリを進めていくというのは、「有効であることが科学的に実証されたリハビリ」を行うということです。

例えば、トレッドミルトレーニングというのは脳卒中患者さんの歩行障害に対して有効であるというエビデンスがあります。

これは世界中で、色々なセラピストが、色々な状態の脳卒中患者さんへトレッドミルトレーニングを行なった研究から得られた成果です。

研究に参加したセラピストは、若いセラピストもベテランのセラピストもいますし、勉強熱心なセラピストもそうでないセラピストもいたと思いますが、脳卒中患者さんの歩行障害に対して有効だということが報告されています。

なので、セラピストに力量差があったとしても、エビデンスに基づいてトレッドミルトレーニングを行えば歩行障害が改善の方向へ向かう、ということが言えます。

EBPが普及すれば、セラピストの力量差に大きな影響を受けることなく、患者さんが良い方向へ向かうことが考えられます。

私たちセラピスト視点で見れば「他のセラピストと差別化したい」と思う気持ちもわかりますが、全体で見れば、まずはEBPが普及し、患者さん全員に良いリハビリテーションが平等に届くことが大事です。

EBP普及における5つの壁

患者さんにとってメリットの大きいEBPですが、なかなか普及しない理由がいくつかあります。

以前、EBP普及における5つの壁を紹介しました。

5つの壁というのは「トレーニングの壁」「時間の壁」「アクセスの壁」「資源の壁」「研究の壁」です。

この中で最もハードルが高いのが「アクセスの壁」です。

それ以外は、セラピストや病院・施設の努力次第でなんとかなりますが、「アクセスの壁」だけはどうにもなりません。

これは、エビデンスを入手できない、という壁です。

エビデンスを入手しようとしても、論文が有料のため入手できなかったという経験はないでしょうか。

海外の有料論文を購入しようとすると1つにあたり30ドル〜40ドルはかかります。

EBPを進めていく上ではシステマティックレビューを行う必要がありますが、システマティックレビューでは何十件も論文を読む必要があります。

その分、お金もかかるわけですが、セラピストが個人でこれを負担することは不可能です。

現在、EBPやEBMという用語がセラピストの中でも一般的になりつつあり、意識が高いセラピストはすでに勉強に取り掛かっていると思います。

ですが、勉強をしてシステマティックレビューができるようになったり批判的吟味のスキルを身につけたとしても、結局エビデンスを入手できなければEBPやEBMを行うことはできません。

今から数年後には、日本のリハビリ業界ではこれが課題になっていると思います。

EBPが普及するためには、この壁を乗り越える必要があります。

誰かが論文情報を集め、それを共有する

この壁を乗り越えるために、BRAINではエビデンスデータベース・ディシジョンエイドを作りたいと考えています。

いつでもだれでも使える、患者さんひとりひとりにとって最善のリハビリテーションを選ぶことを手伝ってくれるツールです。

しかし、これを製作することにも費用がかかります。

BRAINでは、講習会事業を通してEvidence Based Practiceスキルの高いセラピストを育成し、事業を通して得た利益をデータベース・ディシジョンエイド製作費用に充てています。

BRAIN概念図

なので、脳卒中EBPプログラムは受講してくださっている先生方のスキルアップにつながるだけでなく、日本の脳卒中リハビリテーションにおけるEBP普及にも繋がっているということです。

そんな脳卒中EBPプログラムですが、2021年後期の募集を本日から開始しました。

スキルアップしたいセラピストのみなさん、脳卒中リハビリテーションにおけるEBP普及に興味がある方のご参加をお待ちしております!

また、もしよかったらEBPに興味がある方に紹介していただけたら嬉しいです!

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?