『ちきゅうりょこう・にほんへん』
○登場人物
マルグ 青年。高橋諒と名乗る。
ルビルム 青年。小林直人と名乗る。
コノボ 少女。マルグ達の友人。
1. 多目的トイレ・昼
多目的トイレの中に突っ立っているマルグとルビルム。
キョロキョロと辺りを見回す。
ルビルム 「無事に着いたか。しかし…おいマルグ。ここって…」
マルグ 「あぁ。恐らく“といれ”だろうな」
ルビルム、目を輝かして歩き回る。便器を指差して、
ルビルム 「やはりな。この“べんき”が何よりの証拠だ」
マルグ 「おいルビルム、お前の後ろにあるのはもしや…!」
ルビルム 「(振り返り)はっ! “うぉしゅれっと”か!?」
マルグ 「(頷き)こんなにも早くお目にかかれるとはな」
ルビルム 「試したい、猛烈に試したいぞマルグ」
マルグ 「是非そうしてみてくれ…と言いたいところなんだがな。この“といれ”、ちょっと変だとは思わないか」
ルビルム 「何…? そうか、資料で見たものより随分広い…」
マルグ 「その通りだ。流石だな相棒。それに見ろ、“せんめんだい”や、“べびぃべっど”だ。これは本来、普通のトイレにはついていないはず。確かこれが全て揃っているのは…」
二人が耳につけた通信機のようなものから声が聞こえる。
コノボ 『“多目的トイレ”よ、マルグ』
別空間から通信を飛ばすコノボ。パソコンを操作するような音が聞こえる。
ルビルム 「コノボ!」
マルグ 「だろうな。だが、俺たちの転送予定地は“いけぶくろ”の“あにめいと”だったはずだろう。一体どういうことだ」
コノボ 『ちょっとしたトラブルね。転送位置が微妙にズレたみたい。一応そこも池袋であることには変わりないわ。ただ、何故か駅の多目的トイレに転送してしまったようね…』
ルビルム 「“えき”!? ここは“えき”なのかコノボ!!」
マルグ 「落ち着いてくれルビルム。それでコノボ、ここから“あにめいと”までは近いか?」
コノボ 『えぇ、所要時間約10分よ。経路案内は必要?』
マルグ 「いや、大丈夫だ」
コノボ 『わかった。じゃあ二人とも、自分の名前と身なり、それから財布があるかどうかそこでもう一度確認して』
ルビルム 「こばやし…な、なおと! だ! (鏡を見て)良し! (ポケットを触って)“さいふ”も良し!」
マルグ 「(ルビルムに頷き)俺はたかはしりょうだ。身なり、財布共に確認。これでいいか?」
コノボ 『OK、発音も上出来。外に出たら、不用意にはしゃいだり周りをキョロキョロしないこと。なるべく目立つのは避けたいわ。いい?ルビルム』
ルビルム 「もちろん心得ているぞ!」
コノボ 『どうだか… ルビルムを頼んだわよ、マルグ』
マルグ 「あぁ、わかった。また何か問題があったら通信を繋げるよ。じゃ」
コノボ 『あっ、ちょっ!』
通信を切るマルグ。顔を見合わせる二人。
ルビルム 「行こう、相棒! 初めての“ちきゅうりょこう、にほんへん”の始まりだ!」
マルグ 「あぁ! 逸れるといけないから、俺の手をしっかり握っていろよ、ルビルム」
勢いよくトイレの扉を開け、進んでいく二人。手を繋いでいる。
ギョッとした様子で二人を見る周囲の人間達に、二人は気づかない。遠くで数人の女子が二人を見て黄色い声をあげている。
2. 宇宙船・オペレーター室
軽くため息をつくコノボ。
コノボ 「多目的トイレから顔の整った男二人がいきなり恍惚とした顔で出てきたら色々と勘違いされるわよ、って伝えそびれたけど…まぁ良いか、池袋はそういう街だし。(体を伸ばして)さーて、通信が来るまで暇だし、BL読んじゃお〜っと♪」
嬉々とした表情でオペレーター室を出ていくコノボ。
終
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