ドリンクバーって。
登場人物
小池 夏実(19) 女子大学生。最近彼氏に振られた。
坂本 莉子(19) 女子大学生。夏実の友達。
早坂 桃乃(19) 女子大学生。夏実の友達。
ファミレスのバイト君(19) ドリンクバーが好き。(?)
1. 深夜 ファミレス・ボックス席
項垂れている小池夏実(19)。目の前にはストローのささった空のコップ。隣に座る坂本莉子(19)と正面に座る早坂桃乃(19)が、目を合わせて気まずそうにしている。2人の目の前には、飲み掛けのジュースが入ったコップ。
莉子 「な、夏実〜…」
夏実 「……」
莉子 「ほ、ほら、運命の人は遅れてやってくるって言うし! 今回は、なんて言うか練習? 実験? 基礎? みたいな!?」
桃乃 「あんたのそれ、フォローになってんの?」
夏実 「……」
莉子 「なら桃ちゃんもなんか言ってあげてよ!!」
桃乃 「今は何言っても無理でしょ。だいぶ好きだったみたいだし」
莉子 「んも〜〜。 ……じゃ、じゃあ! 今日はパーっと飲んじゃお!! うん! ドリンクバーで!」
桃乃 「ドリンクバーかよ」
莉子 「だってうちらまだ19だし!」
桃乃 「あんたのそう言う真面目なとこ、好きだわ。…ま、夏実もさ、落ち込むなとは言わないから、とりあえず言いたいことぶちまけてスッキリしたら? その為にアタシら呼んだんでしょ」
夏実 「……ドリンクバーってさ、贅沢だよね…」
再び目を合わせる莉子と桃乃。
莉子 「夏─」
夏実 「─色んな種類から自分の好きな様に選べてさ、足したり混ぜたりして自分好みの味にだってできるんだよ」
黙り込む莉子と桃乃。
夏実 「…私、ドリンクバーで飲み物を選ぶみたいに、自分がパートナーを選べるんだと思ってた…でも、相手だって人間だし、そりゃあっちも選びたいよね。足したり混ぜたりして、自分好みにもしたいよね」
顔を少しあげる夏実、真っ直ぐ夏実を見つめている莉子と桃乃。
夏実 「お互い全っ然歩み寄らなかった。ああしてこうしてって、言ってばっかり。私もアイツも、自分の理想ばっかり。あ〜あ。馬鹿だなぁ、今更気づいた」
黙り込む夏実と莉子。
桃乃 「じゃ、次は隣で一緒に何飲むか選べるよーな相手を見つければ良いじゃん」
夏実 「へ?」
桃乃 「選んだ味が違っても、『へーそれが好きなんだ。じゃあ飲んでみようかな』って、2杯目を取りに行くような。お互いの好きを押し付けるんじゃなくて、尊重し合うの」
夏実 「…桃乃…」
桃乃 「ドリンクバーって自分の好きなやつ一杯だけじゃ元取れないし。ちょうど良いんじゃない」
莉子 「桃ちゃん……なんか良く分かんないけど、良い事っぽい事言ったね!!!」
桃乃 「分かれよ!」
夏実、笑う。つられて笑う2人。
夏実 「…私、おかわりとってくるね!」
席を立つ夏実。
莉子 「良かったぁ、ちょっと元気になったっぽい」
桃乃 「アタシの仕事おっしま〜い。さ、何か食べよ。てんこ盛りポテトで良い? 注文しちゃうよ」
莉子 「え〜!!待って待って、私も何か食べたい〜!」
2. 同ファミレス ドリンクバー
何を飲むか迷っている夏実。
夏実 「う〜ん。さんぴん茶も捨てがたい…」
店員が来る。
夏実 「あ、ごめんなさい! 邪魔でした?」
店員 「あ、いえいえ。 …ドリンクバーって、全部魅力的に見えちゃって迷いますよね」
夏実 「そうなんです! 飲んだ事ないやつにチャレンジしたいけど…」
店員 「結局いつも飲んでるやつに落ち着いちゃう」
夏実 「そうそう!」
笑い合う2人。店員、コップを一つ取って氷を入れる。烏龍茶を注いだ後、オレンジジュースを注いでストローで混ぜると、夏実に渡す。
夏実 「…えっと…?」
店員 「僕のとっておきのレシピなんです。良かったら」
店員、軽くドリンクバー周りの掃除をして去っていく。ボーッと見送る夏実。
3. 同ファミレス ボックス席
夏実が戻ってくる。両手にストローのささった空のコップと、ストローのささったオレンジ烏龍茶を持っている。
桃乃 「あんた何でコップ2つ持ってんの? もしかしてまだ引きずってる?」
莉子 「桃ちゃん!! えと、夏─」
立ったまま持ってきたオレンジ烏龍茶を一気飲みする夏実。
桃乃・莉子 「夏実!?」
夏実 「……見つけた」
桃乃・莉子 「え?」
夏実 「二杯目、選んでくれる人!!!」
桃乃・莉子 「……え!?」
コップの中の氷が軽やかに鳴る。
終
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