ぶり木網漁(下)
ぶり木網漁(下)小説 [ (上)、(中) もお読み下さい]
次の漁場は“けじの浦”です。奥の方には海水と川の水が混じり合う処があり、ボラ、スズキ等の淡水にも強い魚がいます。途中虚太郎じさんは、前の漁場で網の破けた部分を修理しました。
到着すると早速、漁を開始します、今日の最後の”ぶり網”なので、虚士も期待をこめて縄を引きます。網が近づくと今までと様子が違います。銀色に光る物が飛び跳ねています。網の外に逃れる物もあります。
みんな、「おぶか(重い)、おぶか」と言いつつ懸命に網を陸に引き上げます。虚士は網の中を見やって、一瞬緊張の後、やったー、やったーと両手を挙げて飛び回りました。
大量のコノシロが入っていました、群れていたのでしょう。コノシロは小骨が多いですが、背切り(骨ごと切った刺身)に酢醤油で食べると格別です。江戸前すしの定番でもあります。他にも少量ですが、しじゅうご(しず)、スズキの子が入っていました。
コノシロと”ぶり網”を船に積み終えると、夕暮れ近くになっていました。朝から出漁する時は、あと2漁場は可能ですが、本日はこれで終了です、大漁でみんなの顔もにこにこです、交代で艪を漕いで、虚士は艪の音消し海水掛け役で家路に着きます。
倉庫(漁具、農具)前に船が到着すると、漁具を陸へ引き上げて、乾くように石垣の上に広げます。
船の上では、虚太郎じさんが、成果品の分配をしています、まず網代分が一山、残りを大人4人で公平、均等に四山、船上に並べます、各々一山ずつ自分のてご(竹で編んだ器)に入れて、にこにこ顔で「今日は良かじゅうじゃったなあ!(大漁だった)」と重いてごを引きずるようにしながら、へ次郎どんが「虚士が頑張ったから良かじゅうになった、だんだんね(ありがとう)」と言いながら帰って行きました。
たくさん獲れた日は、近所、親類縁者にお裾分けします。虚士と兄弟も配るお手伝いをします。お駄賃に西洋紙におしん結び状に包んだ”黒砂糖、ごりん玉(飴)“、さとうきび等もらえました。これは余録で虚士は密かに楽しみにしていました。
コノシロとヒラシバは村人にも人気があり、大漁を聞きつけた人達が虚士の家まで「ヒラシバを売ってくれんかな?」と容器を持ってやって来ました、にこにこ顔でかちゃん(母)が対応していました。
虚士一家は取れたての新鮮な魚を総出で料理にかかります。庭に出て、虚士もヒラシバの頭をちぎり刺身にします、虚太郎じさんはコノシロの背切りを造っています、食べきれない魚は、塩ゆで、干物等にします、近所の猫も魚の臭いを嗅ぎつけ鋭い目つきで、隙あらばと狙ってきます。
調理が終わると、料理が食卓に並べられます、コノシロとヒラシバの刺身、イトヨリ、ベラ、ホウボウは煮付けです、仏様にお参り後、家族9人集合します、みんなで「いただきます」と言って食べ始めます。会話も弾み、誰かが「今日のぶり網は、虚士が手伝ってくれたから、大漁じゃったとばい」と持ち上げてくれます。虚士は嬉しくて仕方ありません。
虚太郎じさんは、取れたてのコノシロの背切り刺身を肴に、だれ休めの焼酎を飲み嬉しそう、虚士にとって虚太郎じさんは、自慢のヒーローに見えました、今度の夏休みは何回も、一日中”ぶり木網漁”をしたいと思いました。
完--(上)(下)もあります(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました。)
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