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なぜ彼らは旅を続けるのか 〜『NOMADLAND』を観る〜

おそらく、僕の中で好きな映画ランキング第2位に決定した。

ちなみに1位は『LIFE!』

たぶん僕は旅に出たいんだろう(笑)

さて、今回2度目の鑑賞となる今作だけど、
とにかく多くを語らず、アメリカ西部の壮大な自然とノマド(放浪者)たちの暮らしはとても美しく、儚い。

とにかく色んなカットがルーズショットで映されるから、どこか心の奥底にある人としての孤独、そして地球に生きているということを感じとることができる。

主人公は過去に夫を失い、愛し続けた街エンパイアを離れノマドとして暮らすことを決めたファーン。
フランシス・マクドーマンドのなんとも言えない表情がとにかく胸をキュッとさせる。

彼女はまだ、ノマドとして生きることに対して、悲しみや不安を拭いきれていない。

しかし、周りのノマド達と触れ合い、自由に生きることに心を開いていく。

相棒のバン「ヴァンガード(先駆者)」がパンクした時、先輩ノマドに説教されたり、男性ノマドに恋心を抱かれたり。

こうした出来事は久しぶりに感じたのだろうか。
彼女の表情の変化が心に残る。

中盤、姉の家を訪ねるシーンがある。
姉の夫の友人たちが「これからは不動産屋の飛躍の年になる」と言うと、ファーンが「借金を背負わせてまで家を買わせるのはいかがなものか」と言い放つ。

姉は「ノマドの暮らしは素敵。かつてのアメリカの開拓者のよう。アメリカの伝統よ」とフォローをする。

そのシーンでなぜ彼らは旅を続けるのか分かった気がする。

ノマドの多くは高齢者だ。
彼らの多くは、愛する人を失い先の光が見えなかった人。彼らは、何かを失った時、人生が止まってしまった。そうした時、ノマドの生き方に出会う。
そしてアメリカ西部へノマドとして暮らし始める。

そう。彼らはもう一度、かつてのアメリカ開拓者のように人生をもう一度、切り拓こうとしているのだと。

そして過去の悲しみは捨てず、共に連れていく。
美しく壮大な自然を肌で感じ、地球に生きるちっぽけな生き物として、悲しみの過去を、人生の過去として昇華させているのだ。

今作には本物のノマドたちが出演し、スクリーンのなかでファーンたちと触れ合った。
彼らが語る人生の物語はどんなシナリオよりもリアルだ(一部に脚色はあるにせよ)。

終盤、男性ノマドとファーンが話すシーンで彼はこう言っていた。

「"さよなら"はノマドにはない。"また会おう"なんだ」

どこかでまた会えるから。

名作『スタンド・バイミー』と同じ理論をぶちかましてきて、僕は本当にこの作品が好きになった。

過去に失った人もまた旅の途中で出会うことができる。
この狭い地球にいる限りは。

彼らは、強い人たちだ。
過去に言い訳はしない。今となっては人生を少し違う道へと誘った出来事として捉えている。
けれど、たまに振り返り、涙を流す。

家がないだけだ。しかし彼らは誰よりも人として生きている。

人生の第二章を進む彼らに、とてつもないものを教えられた気がする。

何度でも観れる名作だ。

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