修羅の町
僕がホームセンターに勤めて2年ほど経った頃、福岡から北九州の店に異動になった。北九州というとなんだかいいイメージはなかった。悪そうな人たちがたくさんいそうな印象であった。そこで北九州の大学出身の後輩からいろいろ話を聞いた。
「車を運転していたら、幅寄せされた」とか「あおり運転された」とか「ヤクザみたいなのに、いちゃもんつけられたり、ヤンキーにカツアゲされたやつがいる」とか。指定暴力団が大きな顔をして闊歩していて、拳銃、手りゅう弾、バズーガ砲が民家から発見され押収されたり、石炭の中継基地だったので、荒くれた連中が多い。等々。のちに修羅の町といわれた。
福岡に住んでいたら、北九州Noの車には気をつけろとはよくいわれていた。特に軽自動車がヤバイ。もし事故でも起こしたなら、身ぐるみはがされるとか。戦々恐々で僕は小倉の地を踏んだ。
確かに指定暴力団は存在して、大きな顔をして買い物にくるし、ヤンキーの万引き集団はよく来るし、全体的にせっかちだし。戦闘的な人が多かったような気はした。店の駐車場で喧嘩が始まったりもした。
ある日、閉店間際に、30代くらいの女性が、ただ事ならぬような表情で店に駆け込んできて「追われているから警察に連絡して」とあわてていった。何事かと思い僕はすぐに110番をした。
やってきた警官は彼女をみるなり一言「ああシャブ中やね」といかにも慣れたような口調で落ち着いていった。
クレームも多い。普通のクレームならまだしも、いいがかりとしかいいようのないような、理不尽なものが多かった。
北九州怖い。小倉恐ろしいという噂は決して嘘ではなかった。
しかし年々、この土地にいると、人にも慣れてくる。ヤクザはともかくそれ以外の人は顔見知りになっていくにつれ、案外いい人が多かった。いわゆる常連さんである。
最初クレームできたお客様も対応の仕方によっては馴染のお客様になってくれるものだ。そういうことから仲良くなって常連さんになったお客様は多い。店にくるなり「中阜さん、中阜さん」と呼んでくれる。
北九州怖いと思った思い込みがいつしか変わっていった。
愛する妻も北九州出身である。