親知らずという恐怖に直面する.
「これじゃダメだ。もっと太くて長いやつとって!」
病室に先生の声が響く。
口に中にデカイ金属がぶち込まれる。
僕は終わったと思った。
いざ、有耶無耶にしていた恐怖に立ち向かうと、恐怖はより一層大きくなっている。
気づけば僕は、待合室で「恐怖 無くし方」でググっていた。
デカルトの『情熱論』45項によれば、
要するに、恐怖という気持ちに直接戦いを挑んでも、恐怖は無くならない。「恐怖消えろ!」といっても消えないのだ。
ではどうすればいいのか。
デカルトはこうも言っている。
理解に大変苦しむが、簡単にいうと、「他のことを考えろ」ということである。
それは無理だ。無理である。自分の体の一部が、体から物理的に引き抜かれてる時に、他のことを考えろ?無理である。
ついに、診察室の椅子に座り、背もたれが倒れていく。
恐怖と緊張で「口開けてる時って呼吸どうするんだっけ?」とか考える。
麻酔がチクッと刺さり、歯の感覚がなくなる。
ふと、同僚の言葉を思い出す。
「上の親知らずはあんまり大変じゃないよ!」
なんとなく心が落ち着いたような気がした。
でもそれは一瞬だった。
全然抜けない。
明らかに先生にも焦りが出ている。
「もうすぐ抜けますからねー。」を4回ぐらい聞いた。
同僚は嘘つきだ。全然大変じゃなくない!!
抜かれてる間、僕は
これがなかなか抜けなくて、麻酔が解けたら。。。
もう一生抜けなくて、ここから帰れないのではないか。。。
一生歯をゴリゴリされるのではないか。
中途半端な状態で、「やっぱり無理でした!」とか言われたらどうしよう。
たくさんの不安が頭を駆け巡っていたその時
「抜けたので、糸で穴を閉じていきますね。」
戦いが終わった。あっけなく、何もなかったかのように終わった。
ちなみに施術中は全く痛くなく、ただ恐怖があるだけだった。
先生によると、僕の歯には根っこが4つあるようだ。
相場はこんなふうに2つらしい→🦷
先生はそう言って、血だらけの歯を見せてくれた。
確かに根っこが4つあった。
バケモンみたいで少し引いた。
なんで僕の体はそこでがんばった?とも思った。
それと同時に自分の体の一部がなくなった、という事実に少し寂しさも感じた。
僕は母に「丈夫に生んでくれてありがと」とラインを送った。
返信は「だと思ってた」だった。
下の親知らずにつづく
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