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16の思いも天にのぼる ①美奈子(3)
数日後、広の告別式が行われた。
告別式の日、美奈子は初めて口紅を使った。広が好きな芸能人がCMで宣伝をしていた口紅だ。美奈子の誕生日に、広が初めてプレゼントしたものだった。
唇が桃色に染まるたび、その芸能人に近付いた気がした。そして勇気が湧いた。勇気をまとってから告別式行った。
告別式に行くと、もう級友たちが来ていた。美奈子以外、一人男子が来ていないだけだった。
告別式が始まり、焼香を行っていく。美奈子もみんなに続いて、焼香を行った。
焼香が終わると、足早に式場を後にした。
これ以上いると、自分が自分ではなくなりそうな気がしたからだ。
真っ白な顔に、真っ赤な唇。とても綺麗だった。交通事故に遭った人間ではないくらい綺麗だった。
いつだったか、広は頭をぶつけてパタリと倒れたふりをし、美奈子を驚かせたことがあった。あの時は、冗談で倒れたからすぐに立ち上がり
「嘘だよ」
と心配していた美奈子をよそに、すっとんきょうな声で、笑いながら言った。
(あの時の様に、嘘だと言って欲しい)
美奈子は願った。しかし今は、あの時とは違う。美奈子にもそれは分かっていた。
でも、信じたくはなかったし、あまりにも綺麗な顔の広を見ていると、切ないほどにそう願ってしまう。
式場を出る時に、広の友だちに手紙を渡された。それを受け取ると乱暴に制服のポケットに突っ込んだ。
手紙がポケットの中で折れ曲がったのを感じると、少し心が痛んだ。
家に帰ると、すぐに自分の部屋へ向かった。家はまだ両親が告別式から帰ってきていなかったので、しんと静まり返っていた。
美奈子は部屋に入ると、ベッドの上に広げてあったプリクラを手に取った。手に取ったプリクラを見て、ギュッと抱きしめて家を飛び出した。そして、思い出の場所へ駆け出した。
(もしかしたら、広がいるかもしれない)
そんな思いが美奈子の足を動かす。
住宅地を抜け、小道に入り、小さい古ぼけた公園に着いた。
でも、やはり広はいなかった。
がらんとした公園に、セミの声だけが響き渡っている。
二人が付き合い始めたのも、ちょうどセミが鳴き始めた頃だった。
ふとその日のことを思い出していた。