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『華厳経』睡魔・雑念 格闘中31

「十地品」― 善慧地・法雲地 ― 仏の光・十地のまとめ 


菩薩の段階(ステージ)は、さらに進み、第九地の善慧地、最終となる第十地の法雲地へと進んでいくのであるが、この2つの地では、共通して、”智慧”・”知ること”が強調されている。

特に、第九地の善慧地では、以下の四つの無礙智ということが挙げられているのであるが、残念なことに、第九地のこの無礙に関して、言及している先生は、当方が読んだ少ない資料の中には見当たらなかった。

 1)法無礙 ・・・諸法の体性〔実体のことか?〕が無いことを知る
 2)義無礙 ・・・諸法の消滅の相を知る
 3)辞無礙 ・・・諸法は仮名(けみょう)ではあるものの、それを理解
          した上で、説くことを知る
 4)楽説(ぎょうぜつ)無礙・・・仮名であることを基に、様々な説を
                 捨てることがないということを知る

  ※『国訳大蔵経』,経部第六巻,第一書房,1993,p.289を当方にてまとめた

仮に、無礙=”さまたげる事無く”の意味に解すると、そのままの状態を、ありのまま知るということになり、如実知見ということになるのかも知れない。

最終の第十地である法雲地では、菩薩の段階であるとは言え、既に仏に近い菩薩の姿が描かれている。

 「是(こ)の菩薩は、大蓮華の上に坐して、即時に足の下より百万阿僧祇
 の光明を出し、十方の阿鼻地獄等を照して、衆生の苦悩を滅し〔中略〕白 
 毫(びゃくごう)より若干の光明を放ちて、十方の位を得たる菩薩を照ら
 し、一切の魔宮は隠蔽(おんぺい)せられて現ぜず。」
 
  〔旧字体を新字体に改めた。〕

『国訳大蔵経』,経部第六巻,第一書房,1993,pp.301-302

これを、『華厳経』最初の方の「盧舎那仏品」に於ける、以下の釈尊のお姿と比較してみるとその類似性がはっきりとする。

 「爾(そ)の時に世尊、一切の菩薩大衆をして、仏の無量無辺の境界自在
 の法門を知らしめんと欲するが故に、眉間(びけん)の白毫相(びゃくご
 うそう)の、一切宝色燈明雲光を放ち、一切菩薩慧光観察照十方蔵と名( 
 なづ)く。〔中略〕皆悉く普く一切の法界を照らし、一切の世界於いて、
 一切の仏の諸の大願雲を雨(あめふ)らし、普賢菩薩を顕現して、大衆に
 示し已(おわ)りて還りて足下(そくか)の相輪中より入れり。」

  〔旧字体を新字体に改めた。〕


  『国訳大蔵経』,経部第五巻,第一書房,2005,p.151

釈尊の光には、名前が付けられているのに対し、菩薩ではその名が示されてていないほか、白毫からの光の量に於いて、菩薩では”若干”とされており、釈尊の場合と差別化されてはいるものの、釈尊と同じように、菩薩も同じように光を放つことが出来ることが描かれているのである。

そうして十地品の最後に、金剛蔵菩薩は、十地を偈の中で、以下のようにまとめている。

 第一地 歓喜地・・・堅固の願を生じる
 第二地 離垢地・・・戒と供に生活を送る
 第三地 明地 ・・・諸の仮名を捨てる
 第四地 燄地 ・・・一心不壊の浄心を得る
 第五地 難勝地・・・方便を生じ、世間の事を起こす
 第六地 現前地・・・因縁法を観ずる
 第七地 遠行地・・・諸法を観ずる
 第八地 不動地・・・大荘厳を起こして示現する
 第九地 善慧地・・・深解脱を得て、世間の行に通達する
 第十地 法雲寺・・・一切の諸仏の大法名の雨を受く

  ※『国訳大蔵経』,経部第六巻,第一書房,1993,p.315を当方にてまとめた

研究者の方で、十波羅蜜と、この十地が対応していることを指摘する方もいらっしゃるようであるが、当方が2回読んだ限りは、概ね対応しているといった程度であって、少なくとも、一対一対応のようにはなっていないように思われた。

流石に2巡目では、1巡目に読んだときには気が付かなかった幾つかのことが
はっきりしたが、その中でも、特に感じたのは、自身の完成(釈尊に近づくこと)のみならず、他者(衆生)の救済がすべての段階においても、常に意識されている点であった。自利だけでなく、利他も常に意識されているのである。

仏道が、釈尊の後を追いかけて行くことであるとするならば、それも納得がいくことであろう。いわゆる梵天勧請と呼ばれる場面に於いて、釈尊は独り
理解した真如を、敢えて他者に伝えることにしたのである。

釈尊を師とする者であるならば、釈尊に見習い、他者への振り分けも考えるべきなのである。まして、釈尊と同じような段階に到達するのが、いつになるのか分からないような状況であれば、尚更である。

今この段階で、振り分けられるものであれば、惜しみなく他者へ振り分けて(回向して)行こうという意識が、十地品を通して、感じられたのである。


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