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デトロイト美術館の奇跡

合衆国の都市デトロイトとのファーストコンタクトは、野球のタイガースでもなく、アメフトのライオンズでもない。自分たちの世代はおそらくロックバンド、キッスによる1976年発表の「デトロイトロックシティ」のはずだ。バーを出て愛車のイグニッションキーを回すとカーラジオが鳴りはじめエンジンも回転し始める、するとあの印象的なギターリフが聞こえてくるというイントロを思い出す。今にして思えば、フォード、ゼナラルモータース、クライスラーというビッグ3がある街へのオマージュだったのかもしれないな。エリー湖に面した街ということで思い出すのは、1984年の「ストレンジャーザンパラダイス」だけど、あれは向こう岸のクリーヴランドが舞台だった。自分にとってはそのくらいしか接点を思い出せないデトロイトだったのだけど、「奇跡」という言葉につられて手に取ったのが、人生初の原田マハさんでもある「デトロイト美術館の奇跡」。

本の話の前に、デトロイトの歴史を確認してみることに。1900年ごろのT型フォードの大ヒットで全米一の自動車工業都市として発展していく。それを支えていたのが、南部から移住してきたアフリカ系アメリカ人労働者。スラム街に押し込められて低賃金の仕事をしていたらしい。そのような厳しい環境に反発し、とうとう1967年には彼らによるデトロイト暴動(Detroit Riot)が発生する。暴動の起きた場所から程近いホテルで起きたアルジェ・モーテル事件は2017年に公開された映画「デトロイト」で題材として取り上げられている。また、この暴動などが原因で町の中心部インナーシティーから白人たちが郊外に脱出していくホワイトフライトという傾向が進んでいき、現在でもアフリカンアメリカンの割合が全人口の80%を超えているという。さらに1970年あたりから安くて、安全で、燃費の良い日本車が世界的にブームになったことで自動車産業は大打撃を受け、解雇、倒産などで失業者が急増し治安も悪化していく。かつて古着の買い付けでシカゴやセントルイスまでは通っていたけれど、デトロイトに行かなかったのは日本人として危険な街だからとボスが判断していたのかもしれない。

2013年7月18日(7年前の明日)デトロイト市は財政破綻を発表する。負債総額は180億ドル(約1兆8000億円)、この負債を返済するのに目をつけられたのが「デトロイト美術館」のコレクションだった。原田マハさんの「デトロイト美術館の奇跡」は、このことにまつわるストーリー。主人公のひとりフレッド・ウィルはアフリカ系アメリカ人、自動車工場で働きながら、デトロイトを自分の居場所と思い、奥さんのジェシカと穏やかな日々を過ごしている。二人の心の拠り所は美術館にある、一枚の絵だったのだが…。このご夫婦がなぜだかとても微笑ましかったな。自分の居場所を誇りを持って「マイプレイス」と思えるというのも羨ましかった。

画像が目に浮かび映画のようでした、短いのでぜひ読んでください。文庫で120ページほどのものです。作者曰くノンフィクションとフィクションのミックス。クライマックスはちょっと目頭が熱くなります。

市立美術館というのは日本ではなかなか難しいのだろうけれど、千葉県には県立の美術館と市の美術館があり、市の方は先日、リニューアルオープンしたようです。

DIA
https://www.dia.org

DETROIT ROCK CITY
https://youtu.be/naXPoz1Du34

映画「デトロイト」
https://youtu.be/d5h7Kgo-zeI

千葉市美術館
https://www.ccma-net.jp

追記1
クリントイーストウッドの「グラントリノ」もそうでした、ミシガン州が舞台。イーストウッド演じるポーランド系アメリカ人コワルスキーは長年フォードの工場で働いていたという設定。

追記2
モータウンレコード発祥の地でもありました。
この辺りの歴史もおもしろいので、またの機会に。

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