三浦清美『ロシアの思考回路』読んだ
いやあ、これは面白かった。
今、Kindle版はお安くなってます。
三浦清美氏のことは、この本で知った。
氏は主に正教からみたロシアの精神史について書かれていた。それが興味深くて、単著を読みたくなったのである。
高橋沙奈美氏のこの本は、より深く正教に突っ込んでいくのに対して、三浦氏はどちらかというとロシア、ウクライナ、ベラルーシの歴史、特に精神史と絡めて語っているのが特徴である。
ものすごく大雑把にまとめると、東スラブ3国の歴史は、もともと一つだった東スラブ人が、タタールの軛を契機に分化していく過程なのである。それは現在も進行中といえるだろう。
キエフ大公国としてある程度まとまっていたかの地域は、モンゴルの侵入でめちゃくちゃになってしまう。
ロシアは政治的なグダグダの中、キリスト者たちが、精神的な支柱となっていく。その代表が荒野修道院運動であり、清廉な聖職者を多数輩出した。そして彼らのムーブメントは、その後のロシア的巨人たちを育む土壌ともなったのである。
一方、ウクライナはポーランド、ベラルーシはリトアニアを通じて西欧文明と関わらざるを得ず、カトリックなどの影響を受けていくのである。
そうした中、ウクライナは独自の文化を育み(その象徴が聖ソフィア大聖堂である)、西欧化を指向するピョートル大帝の時代には、ウクライナ出身の知識人たちが重用され、ロシアにも影響を与えていくのである。
しかし、ウクライナ、ベラルーシには、荒野修道院運動のような、精神的支柱となるべきものは形成されなかった。そのかわりに誕生したのがコサックとかヘトマン国家と呼ばれるものだったのである。。。
本書の、キリスト教を中心に東スラブ民族を語るという視点は、私にとっては新鮮だった。つまりキリスト教との向き合い方がいつからか大きく異なってしまったのが、現在も続くロシアとウクライナの相剋の遠因なのだというのである。
たしかにロシアが歴史的に戴く強い指導者は、東方正教のアウトラトール概念と親和的である。ロシアの土着の信仰と融和して変質することなく、ビザンツ帝国の正教を今も受け継いだ結果がプーチン大統領なのだ。プーチン大統領は帝国の統治者なので特定の宗教に肩入れすることはないが、自身はロシア正教のお作法を完璧にマスターしているとのことだ。
コンスタンティノープルから見れば辺境のロシアで正統な教義が根付いたのは興味深い。土着信仰的な正教との対立はピョートル大帝の時代に最高潮に達したが、それは西欧文明を受容することへの違和感でもあった。その違和感を緩和したのがウクライナやベラルーシの知識人だったのである。
本書は歴史の記述が丁寧である。キュリロス、メトディの布教活動から近代まで丁寧に、しかも情感も込めて描くのだ。丁寧すぎてとてもじゃないが拾いきれないっていう、、、
三浦清美氏の著作には、より由緒正しい『ロシアの源流』がある。
Kindle Unlimitedだったのでゲットした。いつか読んでみたい。