ジョシュア・フォア『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』読んだ
アンダース・エリクソンの本で紹介されていたジョシュア・フォアの本を読んだ。
フォアはナショジオなどに記事を投稿しているジャーナリストである。全米記憶力選手権の取材したのを契機に記憶に関心を持ち、1年後の同大会で優勝するまでを描いたもの。
なお、アメリカの記憶力選手権のレベルはとうていヨーロッパには及ばないとのこと。
著者はジャーナリストだから、グランドマスターやアンダース・エリクソンの指導のもとで訓練するかたわら、様々な取材をしている。
まずは覚えすぎて困っている人たちだ。記憶術を使わずに異常な記憶力を発揮する人たちは、共感覚といってなにごとにも、嗅覚やイメージなどの感覚が共起する。だから覚えられるのだが、大事なことと些細なことを区別せず覚えてしまうので、注意力散漫な印象を与えるらしい。
記憶術は強烈なイメージを意識的に使うので、そういうことはおこらない。
また『レインマン』のモデルとなったキム・ピークにも取材しており、尋常ではない記憶力についてレポートしている。なおダスティン・ホフマンが演じたような自閉症ではないらしいが、それでも社会生活には困難を抱えている。
あるいは、ぜんぜん覚えられない人、つまり健忘症の患者にも取材している。自分が健忘症であることすら覚えられない彼らを通じて、記憶が人生にもたらす意味まで考察しており、この部分が一番おもしろかった。
またマインドマップの人トニー・ブザンにも取材するという念の入れ用である。著者も他の記憶力の達人も、ブザンのことをdisりまくってるのがおもろい。
これにとどまらず記憶術の歴史まで書いている。
文字の登場以前は、吟遊詩人たちが口承で物語を伝えた。おそらくは一字一句正確に伝承したわけではない。吟じやすく覚えやすい形に変形しつつ伝えていったものと思われる。
文字ができてからはそうはいかず、記憶に求められる正確さの水準が跳ね上がった。数少ない写本を記憶するのは大変だったし、中世以前の本は、句読点もスペースも改行もなく、読みにくいことこの上なかった。
グーテンベルク以降は、記憶の必要性は激減し、現代もその過程にあると考えられる。
こういうジャーナリストらしい記述だけでなく、記憶術の具体的な方法もいろいろ書いてある。PAOシステムや場所法の実際を知ることができてよかった。
そして最後は全米記憶力選手権で優勝する。ところが、せっかく身につけた記憶術が現代の日常生活では活躍する場面が少ないし、記憶術を磨くよりは他のことに時間を使ったほうがいいと気づくのだった。。。なんやそれ。