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みんなオリンピックは卓球を見るんだ
オリンピックいい感じに盛り上がってるね。というわけで今日は卓球の話である。オリピック卓球競技の見どころなどを紹介する。
まず卓球という競技の特殊性から説明する。
卓球とテニスやバドミントンとの違いは、まず回転である。ラケットに貼ってあるラバーはボールに激しく回転をかけることができる。回転をかけられるということは、(裏ソフトラバーの場合)ボールの回転の影響を受けやすいということでもある。
これは知らない人からすると不可解なミスが連発する要因でもある。だからこの20年にわたってルールが変更され続けてきた。一番顕著なのは、昔はサーブのインパクトの瞬間を肘や肩で隠してわかりにくいようにしていたのである。さらにインパクトの瞬間に床を踏み鳴らして音もわからないようにしていた。卓球は陰気なスポーツというネガティブなイメージそのままだったのである。
とはいえ、回転を弱くすると卓球という競技の面白さが損なわれる。そして今のルールはその辺が良い塩梅になっていると思っている。
観戦するときは、下回転は上に持ち上げないとネットにかかるし、上回転は抑え込まないとオーバーミスすると覚えておけばよい。
ではサーブからプレーの流れを説明していこう。
まずサーブ権は2ポイントごとに交代で、サーブを出すプレイヤーが基本的に有利である。
ここでもう一つテニスやバドミントンとの大きな違いをあげると、コート(台)と地面の高さが一致していないことである。これは、台の外にバウンドするボールは振りかぶって打てるが、台でツーバウンドするボールはよほど浮いていない限り振り抜けないことを意味する。台からツーバウンドせずに出てくると思って振り抜いたらラケットを台にぶつけるシーンをたまにみることができる。まあぶつけるのがラケットならいいが、指をぶつけるとマジで痛い(オリンピックに出る選手でそんな人はいないけど)。
だからサーブは基本的にツーバウンドする短いものが主体になる。しかし短すぎるとネットに近いところで打たれる(つまり短い時間で帰ってくる)ので、ツーバウンドするかしないかギリギリのところを狙ってサーブを出す。これに読みを外すためにロングサーブを交えるということになる。
レシーブ側は、前後左右に加えて回転の変化にも対応しないといけないから大変である。原則として、台から出てくるサーブは強打、短いサーブはストップといって台でツーバウンドするように短く返す、である。男子ではこれに加えて、台の中で肘と手首だけでバックハンドを鋭く振り抜くチキータという技術が最近登場して戦術が大きく変化した。日本の張本と丹羽はこのチキータが得意ワザである。
レシーブに対して、サーブを出したほうは攻撃をしかけようとする。いわゆる三球目攻撃である。思惑通り甘いレシーブが返ってきたら強打。ストップされたら、ストップやり返すか、チキータである。
予定通りに3球目で強打できたとしよう。しかしトップクラスの卓球選手の反射神経、動体視力は異常なので、単純に強く打っても手の届く範囲なら返されてしまう。だからサイドラインを切るような厳しいコースを狙うか、ミドルを攻めるのである。テニスやバドミントンの場合、ミドルといえば身体の正面のことだが、卓球では利き腕の肘やポケットのあたりである。
3球目攻撃されてしまったら、まず前陣といって台について早い打点でブロックすることを考える。そうすることで相手の球の威力を利用して、返すことができる。良いコースに返せれば反撃に転じることもできる。あるいは、フットワークに自信のある選手なら、中陣から後陣に下がって、時間の余裕を作ることもできる。そうして台の中でのちまちました展開から、ダイナミックなラリーへと発展していくのである。
それでは各種目の見どころを紹介していこう。
混合ダブルス
今日のお昼間に、水谷隼と伊藤美誠のペアが手に汗握る試合の末に準決勝に進出した。
このペアの特徴は、守りが堅く、前陣でも後陣でもオールラウンドに戦えるキング水谷隼と、前陣での速攻と変化を武器とする伊藤美誠のシナジーである。金メダルまじで狙える(とれるとはいってない)。
準決勝は台湾の鄭怡静と林昀儒 (リン・ユンル、リン・インジュ、Lin Yun-ju)のペアだ。鄭怡静は普通に強い。林は世界ランク6位、中国人と互角に戦える数少ない選手である。細身から切れ味鋭いショットを連発するので、台湾以外でも人気がある。私も大好きだ。このペアはかなり強いが、水谷伊藤なら勝てると信じている。(#追記 台湾ペアに勝利して無事決勝進出)
決勝は許昕(きょきん、Xu Xin、シュ・シン)と劉詩雯(りゅう しぶん、リウ・シーウェン、Liu Shiwen)のペア。めちゃ強い。
まず許昕は今や希少種となったペンホルダーである。フロアを隅から隅まで動き回るプレースタイルからクラウド・ウォーカー(雲の上を歩く人)と呼ばれている。豪快なフォアハンドがトレードマークだが、最近はバックハンドにも磨きをかけている。左利きのペンホルダーということでダブルスの名手でもある。大好きな選手の一人だが、シングルスの代表からは外れてしまった。
劉詩雯は直近の世界選手権王者であるがシングルスの代表からは外れている。プレースタイルは昔の中国女子らしい、速いピッチでの前陣攻撃が持ち味だ。それだけなら女子選手でいくらでもいるが、劉詩雯はとにかくミスがない、コースがえぐい、緩急もあるから手がつけられない。ダブルスも上手くて許昕とのペアで数々のタイトルを獲得している。まあ普通に金メダルだろう。
この二人は団体戦にも登場するので覚えておいてほしい。
追記:みなさん既にご存知の通り、2021年7月26日日本ペアは中国ペアを破って卓球競技で日本初の金メダル獲得に至った。
男子シングルス
混合ダブルスのところで、強い中国人がシングルスの代表から外されたと書いたが、各国2人しか出場できない。このことの意味は大きい。例えば世界選手権だと強い中国人がうじゃうじゃでてきて、これを一人一人倒していかないといけないのである(そして途中で力尽きる)。中国選手が2人しかいないオリンピックはチャンスが多いのである。
男子シングルスは中国人の二人を中心に展開することになろうが、まず日本代表の二人から紹介しよう。
張本智和はいま最も充実している卓球選手の一人だ。いまや代名詞となったチキータだけでなく、前陣での両ハンドドライブはさらに殺傷力を増している。メンタルもフィジカルも強化された18歳はガチで金メダルを取りに行く。
丹羽孝希は先輩の水谷を押しのけて代表の座を獲得した。必殺技は速い打点でのカミソリカウンターである。そして予想外のプレーを繰り出すことで、海外でもファンが多い。
張本とは対照的に、ポーカーフェイスでプレーする丹羽だが、ときどき感情を表に出すのが熱いんだよね。今回はそんなシーンが見れるかな。
張本はイギリスのピッチフォード、台湾の林昀儒という難敵を倒さなくてはいけない。そして準決勝は中国の樊振東だ。めちゃ強い。
丹羽の山もオフチャロフ、カルデラノという強敵を倒さないと準決勝に進めない。準決勝は中国の馬龍とスウェーデンのファルクの勝ったほうだ。
日本人以外の注目選手は、まず中国の馬龍と樊振東。めちゃ強い。穴がない。
続いてドイツの皇帝ティモ・ボル。中国人と互角に戦えるヨーロッパ人として20年以上君臨している。速攻と冷静なコース取り、固い守備はいまだ健在。準決勝での樊振東との対決は必見である。
丹羽と対戦するドイツ人オフチャロフはボルと同じくらい強い。熱い対戦になるだろう。その次のブラジル人カルデラノはコート狭しと走り回る豪快なプレーが見ものだ。
馬龍と準々決勝で当たるであろうフランス人ゴジもカルデラノと同じくファンキーなプレーで人気である。先の世界選手権では許昕を破っており、ジャイアントキリング再現なるか。
馬龍と準決勝で当たるファルクはフォアハンドに表ソフトを貼るヨーロッパ人には珍しい戦型である。先の世界選手権で準優勝しており実力は申し分ない。卓球王国スウェーデン復活はこの男にかかっている。この準決勝も必見。
女子シングルス
残念ながら女子で中国と渡り合えるのは日本だけである。
エース伊藤美誠はバックに表ソフトラバーを貼り速攻と変化で相手を翻弄する。伊藤がバックハンドで相手の強打を受けたとき、ボールの飛び方が明らかに変化するのに注目してほしい。失速気味に飛んでいくので相手はタイミングをずらされたり、前後の感覚が狂わされるのである。こういう意外性がないと中国人には対抗できないのだ。また多彩なサーブにも注目。
なお中国人は伊藤のバックサイドにロングサーブを集めてくる。表ソフトラバーでは強い回転をかけられないからだ。これにどう対応するかにも注目だ。
伊藤の同級生平野美宇の挑戦を退けて代表の座を勝ち取った石川佳純は、福原愛引退後の日本代表を長く支えてきた。守備の堅さ、攻撃の安定性は円熟味を増し、今年1月の全日本選手権では決勝で伊藤美誠を破って久しぶりに女王に返り咲いた。
伊藤美誠は順調に行けば準決勝で孫穎莎(スン・インシャ、そんえいさ、Sun Yingsha)と当たる。中国女子は近年男性化しているといわれる。つまりよりパワープレー寄りになっている。劉詩雯は伝統的な柔のスタイルだが、孫は近年の剛を体現する選手だ。同世代の伊藤と孫はここ3年ほど何度も死闘を繰り広げてきた。しかし結果だけみると伊藤が分が悪い。ここは大歓声で後押ししたかったところだが、、、
もう一つの準決勝は石川と陳夢(ちんむ、チェン・ムン、Chen Meng)である。劉が柔、孫が剛なら、陳夢は両方を兼ね備えた絶対女王だ。長く世界ランク1位を維持する陳夢に石川が勝つのは簡単なことではない。
女子団体
女子団体で中国に対抗できるのは日本だけだ。
団体戦では、伊藤と石川に平野美宇が加わる。平野は、2017年アジア選手権で陳夢ら中国人3人をなぎ倒して優勝している。その高速両ハンドドライブからハリケーンとも称されている。
なお全くどうでもいいことだが、平野の父光正氏は内科医で私達には思い入れのある人物である。これは自慢なのだが、私は光正氏にお酒を注いでもらったことがある。
対する中国は、陳夢、孫穎莎、劉詩雯である。強すぎなのだが、自国開催なのでなにかをおこせるかもしれない。
男子団体
男子団体は女子と違って、中国と対戦できるところまで行くのがちょっと大変である。
準々決勝でファルク率いるスウェーデンと当たるが、ファルク以外には(たぶん)負けないだろうから大丈夫かな。
ドイツは先ほど紹介したティモ・ボルとディミトリ・オフチャロフ(通称ディマ)を擁し、本気で中国を倒しにきている。今日、混合ダブルスで水谷伊藤ペアをあと一歩まで追い詰めたフランツィスカもいる。監督のロスコフ氏がいかついのもポイントが高い。
ドイツは、林昀儒と荘智淵のいる台湾と準々決勝で当たる。どちらが勝っても不思議ではないし、どちらが勝ち上がってきても日本にとって厄介だ。
韓国もかなり強いが反対の山だった、助かった。準決勝で中国に負けるだろうが、どこまで食い下がるか見ものである。
日本は決勝まで中国と当たらない。そして馬龍、樊振東、許昕と3枚揃える中国の圧倒的優位は揺るがない。日本のエース張本に丹羽、水谷という陣容は過去最強と言っていいのだが、中国も常に進化し続けるので追いつくのは並大抵のことではないのだ。しかし願ってもない自国開催、なんかおこってくれ。
以上、簡単だけど、オリンピック卓球競技のポイントを紹介した。
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