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エマニュエル・トッド『老人支配国家 日本の危機』読んだ

そういや最近トッドの本を読んでなかったなと思って購入した。

インタビュー、論評、対談、放談の集成といった感じで気軽に読める。日本は核保有せよといった従来からの主張も多々あったが、このところトッドの発言をフォローしていなかったので目新しいこともあった。

旧聞に属するが、ドナルド・トランプが大統領になった直後ぐらいの発言も知らないものがいくらかあった。例えばアメリカは人種の隔離がフランスなどとは比べものにならないほど温存されているそうだ。人種間の通婚も極めて少ない。実態は白人富裕層に他ならない米民主党が彼らを抱き込むことでバーニー・サンダースを追い落としたと言うことだ。確かにサンダースはマイノリティよりも中間層以下の労働者全体に訴えかけるので、マイノリティにはアピールしなかったのかもしれない。もちろんサンダースはマイノリティも含めたマイノリティに訴えかけたのだし、マイノリティの多くはサンダースの政策で恩恵を受けるはずだった。

そしてヒラリー・クリントンはエスニック・マイノリティの支持は得たが、富裕層でない白人にそっぽを向かれてトランプに敗北した、というのがトッドの見立てである。逆説的なことにヒラリーの政策が実行されて損するのは黒人だし、トランプの政策が本当に実行されたら黒人を恩恵を受けることだ。

このようにアメリカはあべこべな国だが、トッドは、そもそもアメリカは人種差別の国、黒人差別は米国の原点とか、それ以上いけないことを言ってしまうのであった。

米国は建国以来、人種差別と分かち難いデモクラシーの国なのです。米国をつくった英国人たちは、そもそも人類の平等性を信じていませんでした。

これは『ザ・フェデラリスト』などを読めばわかることであるし、そもそも建国の父たちのうちの何人かは奴隷を保有していたのである。

もちろん2020年大統領選挙についても言及している。リベラルが全然リベラルじゃない問題、劣化エリート問題など目新しいことはあまりないが、トランプの再選を望んでいたこと、トランプは白人・黒人の二項対立の外にいるといった指摘は興味深い。またヒスパニックの共和党スイングにも言及がある。

ヒスパニックは黒人と違って、アメリカに同化しつつあるのがその要因の一つと思われる。トッドは日本も移民を受け入れよというが、同化政策がポイントだとも述べている。多様な文化とは、要は隔離政策ではないかというのだ。そしてアメリカの黒人はそうなってしまっている。。。

トッドが日本も移民を受け入れるべきだというのは、少子化が問題だからだ。これでようやくタイトルの老人支配国家になる。もちろんトッドは日本のコロナ対応を批判している。

世界各国の「死者数」は膨大ですが、その大部分は高齢者です。現役世代の死者はわずかで、コロナ以前に想定されていた高齢者の寿命を縮めたにすぎず、人口動態全体に与えるインパクトは大きくありません。むしろ「出生数の減少」と「自粛生活が全世代の平均寿命にもたらす悪影響」の方が今後、明らかになってくるでしょう。要するに、「高齢者」の「健康」を守るために、「若者」と「現役世代」の「生活」に犠牲を強いたわけで、その傾向は、例えば「老人支配」の度合いの弱い英米よりも、日本のような「老人支配」の度合いの強い国ほど顕著です。日本は「コロナによる死亡率」を最小限に抑えましたが、社会が存続する上で「高齢者の死亡率」よりも重要なのは「出生率」であることを忘れてはいけません。

少子化問題は、歴史人口学者トッドの十八番であるから、ここに着目するのは当然だろう。日本で高齢者が重視されるのは「直系家族」という家族構造ゆえであるとトッドは分析する。さらに家族重視が帰って家族を消滅させていると指摘している。

人口動態的にみて日本もやばいが、中国もまた覇権国家にはなりえない。まあ長期期にはそうなんだろうけど、短期的には帝国主義的野心を隠さない中国は厄介な問題じゃないかと思うのだが、、、

家族、特に年輩の家族を大事にする直系家族の問題点は磯田道史氏との対談でも取り上げられている。

磯田 年間三〇兆円を超える社会保障費を使っているのは誰でしょうか。大半は高齢者です。現代の日本では常に上の世代への責任を果たす議論ばかりが先行して、下の世代、子供への投資が薄くなってしまうのです。  
トッド  核家族システムのフランスでは、親を養おうという意識なんて希薄ですよ。

年長者を敬うことにリソースを取られて子孫を残せなかったものは、敬ってくれる人がいないまま老いてしまう。これを社会全体でやってしまったのが今次のパンデミックであった。

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はむっち@ケンブリッジ英検
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