筒井富美『女医問題ぶった斬り!』メモ
筒井富美先生の著書ようやく読んだ。東京医科大学に単を発する女性の医学部入試における不利な扱いの背景に、大胆に踏み込んだものである。非常にfairな内容であるが、これを男性医師が書いたら大炎上間違いなしだなと思った。ちなみに筒井先生はTwitterも嗜まれるので、ポリコレ棒、名誉男性、意識高い系、爺医などのネットスラングを縦横無尽に使いこなしておられる。
内容についてのコメントはおおむねニー仏さんとほぼ同じであり、似たようなnoteを書いたこともあるのでほどほどに。
一番面白かったのは第2章「女医の人生すごろく」で、女医の最大のモテ期は学生時代、18-24歳の性的魅力MAXの時代でそこからは落ちていくなどと本当だがあからさまに言ってはいけないことが露骨に書いてある。いわゆる、それ以上いけない、というやつである。学生時代はカーストの頂点に君臨するも、パッとしなかった男子が病院の看護師、薬剤師、事務職、病院外でもキラキラOLにモテるようになるのを傍目に凋落していくのである。
またキャリアにおいても男性に劣後するようになる。男性の生き方はハイリスク・ハイリターンでがむしゃらに働けるが、女医はワークライフバランスを重視するという知ってる人は知ってるけど、出るところに出たら怒られるようなことも平気で書いている。
失って困るような肩書もないので、ポリコレ棒を恐れず、医療現場の現状と本音を躊躇せず報告しようと思う。
個人的に違和感があったのは、医師の夫を得て、ほどほどに働いてセレブ生活を満喫する「ゆるふわ女医」なるものがやたらとフィーチャーされていることだ。個人的にはそういう女医さんはあまり知らなくて、女を捨ててるみたいな人が知り合いに多い。あるいは出産を契機にやむなくマミートラックに移行する人が多く、プチセレブみたいな生き方を最初から目指す人は知らない。私はそもそも女性が少ない診療科で働いてきたせいかもしれない。著者は麻酔科医であり、ワークライフバランス重視の人が多い診療科であるからそういう女医さんたちをたくさん見てきたのであろう。
というわけでこれから医師をめざす女子高校生や、娘を医師にしたい親御さんには大変おすすめといわざるをえないのである。最後に、心に残った部分を少し長いが引用する(太字は引用者)。
ここ数年、各種メディアで「女医として、妻として、母として、ますます輝く私」みたいなプチ女医タレントを見かけるが、個人的には全く羨ましくない。SNSを拝見すると「ブラアンドファッション」「豪華タワマン自宅」「有名リゾートホテルでのバカンス」みたいなセレブ生活をアピールしているが、医学関係の記述は「自分の病院の宣伝」「イベントの宣伝」「ローションや下着の宣伝(医学的エビデンスなし)」・・・であり、「この人は医療や命を救うことには、あまり興味や情熱はないのだなぁ」と残念に思うからである。実名でセレブ生活をSNSアピールする男性医師がいないのも、結局の所「医学には興味ない」という印象を世間に与えて、仕事上の信頼を失いたくないからなのだろう。
男性医師の場合、院長がブログで「鼠径ヘルニア手術のTEPとTAPPの違い」のような「それ、一般患者は興味ないでしょ」と言いたくなるような専門的な話題を延々と書くのが目立つし、そういうブログを見かけると安心する。私見だが、やはり男性医師には仕事ファーストであってほしいし、医師とはファーストにする価値がある仕事だと思う。女医でも仕事のプライオリティは、少なくとも美容やバカンスよりは上であってほしい。
また、仕事のやりがいや面白さとは、医師免許をとれば自然に発生するわけではない。少なくとも20代は馬車馬のように働いて、それなりに失敗や挫折を繰り返し、医療裁判と紙一重ぐらいの修羅場を何度もくぐった末に見えてくるようなものだと思う。