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西村賢太『二度はゆけぬ町の地図』読んだ

今年の序盤に亡くなった西村賢太さん。
老害化する前にちゃんと死んだのは立派というか、まあ大して長生きする気もないし、そういうつもりで不摂生をしていたようだ。

老害になる前に逝きたいと考えている私は、そういう立派な作家の書いたものが気になる。

というわけで読んじゃった。『貧窶の沼』などを収録した短編集である。

作家の分身たる、北町貫多とか「私」は日雇い労働で食いつなぎつつ、怠惰に暮らしている。

日雇いでしか働けない哀しみなども余さず語られるのであるが、主人公のどうしようもなさがなんとも可愛らしい。

そのような怠惰な性根は、残念ながら私も持ち合わせているのでちょっとだけ共感できる。しかし私は彼らと違ってそれなりのリソースがあるから、まあいい塩梅にやっていけているのである。

面倒になったら逃げ出したくなるのは私も同じなのだが、幸か不幸か私には失うものがあるのでどうにかこうにか踏みとどまっているのである。

こんなふうに威勢よく啖呵を切っても、ヘタレなゆえにたいしたことはできずに別の場所で同じようなことを繰り返す主人公に深く共感することは不可能であるが、さりとて私も後何歩か道を踏み外せばこうなるんじゃないかという可能性に震えてしまうのだ。

舞台は昭和の末期であり現代とは風俗もだいぶ違う。今ならYoutubeやらなんやら安価に時間をつぶす手段が溢れており、快適に自堕落な生活ができてしまう。だから道を踏み外す危険性はより大きいだろうし、それは危険性なんてものではなく、意外と「普通」なのかもしれないと思うのであった。

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はむっち@ケンブリッジ英検
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