岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』読んだ
また哲学の入門書を読んでしまった。
薄くて読みやすかった。
本書は見ての通り西洋思想史の入門書なのだが、なにがいいかって半分以上がギリシャ哲学、ヘブライズム(ユダヤ教とキリスト教)に割かれていることだ。なお著者はギリシャ哲学やレヴィナスを専門としていたらしい。
普通はカントとかヘーゲル以降の近現代に力点が置かれるのだが、本書では古代ギリシャについてえんえん書いている。ギリシャで展開された普遍性、理性、理想を追求する思索が西洋の思想に与えた影響は明白であるから、そうなるのは当然である。
もう一つの影響はもちろんキリスト教である。ギリシャ的な普遍性に対して、「かけがえのないあなた」にフォーカスしたキリスト教は明らかに重要なのだが、思想というよりは宗教という扱いになっているせいか、通常の入門書では軽くしか触れられないのである。
もちろん宗教と思想を切り分けることなど不可能なのであって、本書ではユダヤ教およびキリスト教の成立についてちゃんと解説してあるのがよい。
そういうわけで、古代ギリシャの神々とキリスト教の神は全く別物であることがよくわかった。
むしろキリスト教の神は、パルメニデスがいう一なるものという発想と大変相性が良いような気がした。
ただし中世については普通の入門書と同じくらい軽い扱いである。また近代についてもあっさりである。ヨーロッパの思想はこの二大潮流の間でどのようにバランスを取るかで展開してきたとざっくり捉えるならまあそうなるよね。ヘーゲルやマルクスの歴史観も終末論をなぞっていると言えなくもないとのことである。
現代に至ってはロールズとレヴィナスしか取り上げないという徹底ぶりだ。
そしてこの人選には必然性があって、ロールズはキリスト教的な救いの延長上に捉えられているし、ヘブライズムに力点をおく本書でレヴィナスは無視できないだろう。
もちろん近現代にさらっとしか触れないのは岩波ジュニア新書だからでもある。
さりとて、こんな高度な本をジュニア向けと言い張るなんてさすが岩波書店さんと言うほかないのであった。