2020年に読んだ経済書まとめ
2020年に読んだ経済学とか政治経済の本についてまとめておくのを忘れていた。あんな歴史に残る外生的ショックがあったのに。まあ昨年は英語学習と仏教に時間をかけるようになったのでやむをえないのであるが。
というわけで取り急ぎ。まずはModern Monetary Theory(MMT)関連書籍から。昨年は画期的な本が2冊でている。
世の中では難しいことを簡単に説明するのがよいことみたいになってるが、簡単に説明できることはそもそも難しくないのである。難しいことを簡単に説明できているとしたら、そこには誤魔化しや嘘があることがほとんどである。
この望月氏のMMTの解説書は誤魔化しなしで解説した硬派な一冊である。そのためには初学者にはやや読みにくいかもしれない。しかし必要なことは全部ちゃんと書いてある。初級編を卒業した人にぜひ挑戦してもらいたいなあ。
一方でステファニー・ケルトンのこちらはわかりやすい。
ややこしいところは極力避けて、主権通貨を発行する政府には貨幣的な制約がないことを強調している。また実物的制約についても誤魔化さずに強調しているのも良い。
続いて経済政策に強い軽部謙介氏の著作3つ。
我ら団塊ジュニア世代、すなわち第一次就職氷河期世代にとって、昭和末期のバブルとそれに続いておこった平成の政治的グダグダについて知ることは重要である。
政府、大蔵省、日銀がいかにしてバブルの生成を許してしまったかについてのルポルタージュである。なにがおこっていたか記録しておこうという著者の執念を感じる力作。
バブル崩壊後のめちゃくちゃな政治的過程については他日を期すとして、平成末期の安倍政権についての2作もまた読み応えがあった。
マクロ経済学の神学論争に踏み込むことは慎重に避けつつ、なるべく事実を書いていこうとする姿勢はここでも生きている。一級の経済ジャーナリストである。
平成は様々な外生的ショックがあったがその一つがリーマン・ショックであろう。もう忘れかかってるけど。時間をおいて振り返ってみるのも悪くはないだろうと思って一冊読んでおいた。
普通に面白かった。
あとは日本近現代史の総覧ということで野口悠紀雄氏の代表作をようやく読んだのであった。
戦前に作られた体制は先の大戦で途切れることなく続いたという話である。もちろん旧日銀法を始めとして1980年代以降の改革()で無くなってしまったものもあるが。
まとめ
昨年の強烈なデマンドサイドの外生的ショックは、実は本邦はかなりの供給制約に直面しているという認識にもつながった。そしてそれは反需要引き締め派という、反緊縮でもネオリベでもない勢力を生み出すに至った。
そして私もどちらかというとMMTに批判的にならざるをえない部分もでてきた。MMTというかJGPかな。誰にでも雇用を保証していったらそれはもうUniversal Basic Income(UBI)と変わらないのではないか?それだっら最初からUBIでいいのではないか?
あるいは、一次産業と二次産業に供給制約が無くなって、人が人を使う産業が雇用の主体となったとき、逆に人が足りなくなったみたいな感覚がある。これは低賃金カルテルと呼ばれているものの一面でもあるし、実際にUBIを導入したときに大混乱の原因にもなりうる。ちょっとまだ考えがまとまらないのでまたいずれ。
あとは、2年くらい前までは政府の支出が少なくてマネーサプライが増えず物価も上がらないと素朴に考えていた。日本では、当たり前のことだが、政府は無限に貨幣を発行できる。問題は物価が上がるかどうかだけど、消費性向の低いところに溜まっていくのであれば、つまり資産格差の拡大を許容するのであれば、いつまでたってもインフレにならない。ここまではあまり考えは変わっていない。
だが、資産課税、累進課税強化をすれば、あるいはゲゼル貨幣のような、貨幣を腐らせる、または流動性への課税ということを行えば、富裕層に滞留していた貨幣は実物市場であったり、より消費性向の高い低中所得層へと流れ込むだろう。そのときにどれほど物価が持ちこたえるのか?言い換えると、デフレギャップが埋まるだけですむのか?という問題になってくる。
貨幣を腐らせる、または流動性への課税の反対は、社会保険料や消費税を上げることである。ここ何十年もずっとやってきたことだ。政府支出が拡大し続けてもインフレにならないのはこういう施策のためであるのはご案内のとおりだ。スタグフレーションの時代に生きたハイマン・ミンスキーが付加価値税にこだわったのはこの辺に原因があると思われてならない。
とまあこんな感じで一周回って、リフレ派っぽいというか、言ってることがネオリベっぽくなってしまった1年だった。