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ニック・ランド「暗黒の啓蒙書」読了

やっと読んだぞ、新反動主義の啓蒙書「Dark Enlightenment」の邦訳「暗黒の啓蒙書」。

著者のニック・ランドとその系譜については木澤佐登志氏のブログに詳述されている。

衝撃的だったこのエントリーももう2年以上前なのか。時が経つのは早い。

新反動主義とはドゥルーズ=ガタリの脱領土化を極限まで推し進めて再領土化しないことで(右派もしくは無条件的)加速主義ともいわれる。中世の都市国家を想起させることから反動という言葉が使われている。
ペイパルの創業者として知られるピーター・ティールなど数多くの大物が影響を受けており、また彼らの多くは2016年の米大統領選挙でドナルド・トランプを支持したことも注目された。

ニック・スルニチェックやアレックス・ウィリアムズなど左派加速主義者もニック・ランドに近いところにいたとされるが、やがてランドを批判して袂を分かつことになる。ちなみに左派加速主義と右派加速主義とは相当異なるもので、前者は普通にポリコレに依拠しているのに対して、後者はポリコレを「大聖堂」と呼んで罵倒している。

本書はわりと普通のオルタナ右翼的な内容やポリコレ批判がメインであるが、これが2013年ころのものであることが重要である。現在のBLMとそれにともなう建国の父や南北戦争の銅像の破壊といったことまで予言されている。

アメリカ建国の父らは奴隷所有者で、民主主義を嫌っていた。彼らは英国からの独立を求めて戦った。これは南北戦争における南部諸州も同じで、奴隷所有と連邦からの離脱を求めたのである。この二度目の独立戦争において、分離主義者が敗北したことで現在まで続く政治的正しさのもとへの統合が始まったのである。

これに対して、新反動主義者たちは再び「出口」として分離独立を求めていくことになるとランドは予言する。スコットランドなどヨーロッパのいくつかの地域でみられるがアメリカではおこりそうにないが。もっともアーミッシュなどがこれに該当するといえなくもない。
重要なことはこうした新たな国家は住民から厳しく査定され、住民の貢献に見合うものがないと判断されれば出ていかれることになる。なんぜ「出口」が大事なので。

ランドは政治的正しさ=大聖堂を批判してやまないが、それがいかにしてこれほど強大な権力を得るに至ったかは書かれていない。そこが少し残念である。

最後に左派加速主義についてひとこと。これはテクノロジーを加速させて労働者の解放、政治的正しさの実現を目指していくもので、カリフォルニアイデオロギーとかリバタリアニズムに近い右派加速主義とはだいぶ距離がある。

この中間に位置していたといえるのが「資本主義リアリズム」の著者マーク・フィッシャーである。

ニック・ランドに影響を受けたとされるが、もともとは政治的には左寄りの人だったようだ。だからスルニチェックら左派加速主義にも多大なるインスピレーションを与えたといわれている。

左派寄りのフィッシャーであったが、ニック・ランドが指摘していたような構造もよく見えていたのであろう。それは「市場型スターリニズム」「リベラル共産主義」といった造語にも垣間みえる。

そうした立ち位置ゆえに深い苦悩があり、自殺につながってのではないかということはちょっと前の現代思想で触れられていた。

フィッシャーが生きていれば昨年からの情況についてなんと言っただろうかと思うと、まだまだ死ねないなと思う。

ランドの予言がどんどん成就するような未来もあるかもしれない。ならばしかと目撃して言葉にしなくてはならないし、その時までに言葉を獲得しておかねばならないと思うのであった。

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はむっち@ケンブリッジ英検
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