石弘之『感染症の世界史』とても勉強になった
英検や国連英検のスピーキング、ライティング対策として感染症の歴史をざっくりと捉えておく必要があるなあと前から思っていて、たまたまどなたかが紹介されているのが目についたのが本書である。
名著『鉄条網の世界史』と同じ著者ということで購入したんだけど、いまAmazonの履歴をみるともう半年も前のことだった。でもやっと読んだのでKONAMI感想を書いてみる。
総論がまずけっこう面白くて、感染症と人類の戦いはだいたい4つの類型に落ち着くという。
一つは共倒れ。病原性が強すぎて宿主も病原体もダメになるパターンだ。エボラウイルスはこうなると思われる。
2つ目はワクチンなどにより宿主の勝利に終わるもので、天然痘がそうだし、ポリオ、ハンセン病も根絶されつつある。近年のもっとも目覚ましい戦果はC型肝炎であろう。
3つ目は和平関係だが、宿主の状態によっては日和見感染をおこす。各種常在菌がこれにあたる。
4つ目は永遠の闘争である。結核、水痘、麻疹、B型肝炎ウイルスなど戦いは続いている。
また人類の発展段階によって感染症の発現パターンも変遷する。まず農業による定住とそれによる集団生活、家畜との共生が新たな感染症をもたらした。マラリア、住血吸虫症などだ。
さらには長距離移動である。シルクロード、大航海時代など現代まで続くグローバライゼーションは確実に各種病原性微生物に新たな活躍の場を与えてきた。特に戦争は集団生活を伴う長距離移動であるがゆえに、格好の感染の足場となる。最近話題になったスペイン風邪などが典型だ。WW1の中立国であったスペインは情報統制がゆるくて死者を正確に報告してしまい、こういう不名誉な名前をつけられてしまった。正直者が馬鹿を見ちゃったというわけである。
また都市化の進行はコレラの蔓延をきたし、疫学のきっかけにもなったのはよく知られるところである。さらに現代は環境破壊というファクターも加わり、自然の奥深くに閉じ込められていた病原体が明るみにでたりもする。エボラウイルスやエイズウイルスがそうだ。
総論はそんな感じである。各論もまた充実している。夏目雅子でいちやく有名になったHTLVをはじめ、ヘルペス、麻疹、おたふく、風疹、結核、HIV、インフルエンザ、HPV、ピロリ菌など医学部生が微生物学の講義で習うものはだいたいカバーされている。この網羅性という点でもおすすめの一冊である。
またピロリ菌の遺伝子多型で人類の足跡がわかるとか、性感染症の発がん性はタバコ並とか、雑学満載なのもポイントが高い。
麻疹と風疹はけっこうな紙幅を使って日本がワクチン後進国であることを嘆いている。結核も同様である。執筆が2016年ころであるせいか、著者が朝日新聞出身であるせいかなんなのかわからないが、HPVワクチン接種が進まないことに対しては麻疹や風疹ほど強い口調では批判していない。
小児の命にかかわる麻疹、胎児に多大なる悪影響を及ぼしうる風疹、若年女性が癌におかされるHPVなどを放置して、COVID-19のような雑魚ウイルスで大騒ぎするのほんまにアホくさいなあと思いながら読んだのであった。
最終章でグローバル化、環境破壊によりこれからも新興感染症との戦いは続くと予測している。まあこの辺は普通だが、高齢化の悪影響を指摘しているのは興味深い。COVID-19が現役世代にとっては通常のウイルス性上気道炎にすぎないのにこれだけ社会をズタボロにしたのは高齢化社会という要因が大きく影響したからと考えざるをえない。
しかし著者は現代の特異な点をひとつ見落としている。インターネットだ。COVID-19の尋常ではない破壊力は情報伝播の速さがなくてはありえなかった。そう、人類にインターネットは早すぎたし、速すぎるのだ。
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