アメリカの歴史をお勉強しましょう
『自由の国と感染症』絶賛発売中である。
さて昨日に続いて、同書を訳すにあたってやったお勉強を書いていこう。今日はアメリカの歴史とか地理についてだ。
まずアメリカの通史を復習した。
山川出版の青の各国史の新装版が出ていたので購入。普通の教科書とは比べ物にならないボリュームだが、一国の歴史を通覧するならこれくらいは必要だ。
そして『自由の国と感染症』は一般的な歴史についてはこれで十分だった。
しかし憲法に関しては全く足りない。制定の経緯、解釈の変遷はより突っ込んだ解説書が必要である。そこでこれ。
阿川さんのこの本は非常に素晴らしい。文句なしにおすすめできる。
合衆国憲法採択、批准にまつわるドラマ、連邦最高裁による解釈の変遷など非常に役立った。またエマニュエル・トッドに言わせるまでもなく、アメリカの歴史は人種差別の歴史でもあり、そのあたりの事情にも詳しく触れられている。
次に医療制度の歴史も知っておく必要があると考えたので、これを読んだ。
アメリカの医療保険の貧弱さはしばしば批判されるところであり、それをトマス・ジェファーソンにまで遡って解説している。制度の経路依存性がよくわかって面白い。
ただし翻訳には直接関係ないことがほとんどだった。『自由の国と感染症』は医療保険についての書ではないからだ。オバマケアについてわずかに触れている箇所があるだけで、たった1行か2行の訳のために一冊本を読んだということになる。まあそれはこの本だけじゃないんだけどね。
関係ないけど、以前の私はアメリカの医療制度に批判的だったが、コロナ禍を経て、いやその少し前から、あれはあれで合理的なのだなあと思うようになった。少なくとも、現役世代に懲罰的水準の社会保険料を科す日本の制度が合理的だとかsustainableとは思えない。
歴史に関してはだいたいこれくらい。トクビルとかザ・フェデラリストなどの古典も読んだが、現代の読者にお薦めするようなものではないから割愛。
あとはアメリカの地理だね。
地図はGoogleマップでだいたい事足りるのだが、こういう本も読んでおいた。
ニューオーリンズからミシシッピ川とかメキシコ湾岸に黄熱病が広がっていく様を想像できた。地理とは単なる地形ではなく、人やモノの流れも把握しないといけないからね。
トクビルが描いた初期アメリカのタウンシップについてイメージを持っておきたいと思ったのでこんなのも読んでみた。
非常に面白い本だった。アメリカにおける宗教、寛容性について、日本との違いなどを考える良い材料となった。コロナ禍においては寛容さとは何か、想いを致さざるを得ないことも多かったし。
もちろん主人公のロジャー・ウィリアムズのはちゃめちゃな人生も面白い。
翻訳にダイレクトに影響することはなかったが、反ワクチン主義者の存在をも許容するアメリカの自由についてイメージがより具体的になった、鴨試練。
他にもアメリカの文化とか生活についての本はいくつか読んだ。多くは気軽に読めるものだ。例えばこれとか。
これらも翻訳に直に影響するようなものではなかったけど、感銘を受けることも多かった。例えばこのサラさんの本からは、著者の英語教育にかける熱が伝わってきた。
これでだいたい翻訳についてお勉強したことは紹介できた。
ここまでやる必要はなかったのかもしれないし、あるいはもっと勉强するべきだったのかもしれない。一つ言えるのは、お金のためだけならこんなに勉强できなかったということだ。自己満足だったり、使命感だったり、様々な要因が関係しているのであった。