『闇の自己啓発』読んだぜ
衝動買いした『闇の自己啓発』さくっと読了。
本書は木澤佐登志氏が中心となって、江永泉氏のnoteで展開された読書会を、大量の注釈を付してまとめたものである。話題があっちにいったりこっちにったりする座談会では注釈は極めて重要である。
タイトルはもちろんニック・ランドの暗黒啓蒙からとったものである。というわけでトップバッターはニック・ランドの日本への紹介者である木澤佐登志氏の『ダークウェブ・アンダーグラウンド』。
同書の前半はダークウェブの紳士録といった感じで面白くて、著者はこちらがメインのつもりだったらしい。しかし付け足し近かったニック・ランドや新反動主義の紹介のほうが話題となって意外だったという。
続いて紹介されたのはこちら。
墨子の説明から始まって統治功利主義へと展開する。疫病の制圧にあたって、熟議型民主主義の機能不全を目の当たりにする昨今であるから、興味深い議論であった。
これは買って読んでみようと思った。ビッグブラザー的なものがやってくるのは案外近いのかもしれないし、もしかしたらすでに社会に深く浸透しているのかもしれない。そういう楽しいことを考える手がかりになりそうだ。
次に稲葉振一郎さんのこの本。
稲葉氏は政治学の人かと思ってたが、アニメやSFについてもいろいろ著作があるのを初めて知った。
そして読もう読もうと思って放置してある現代思想の反出生主義特集号。
反出生主義が生きづらさから来るものであれば、現状を解体する方向で加速主義とも接続しうるという指摘はスリリングだった。
また、「一部の反出生主義者は母親への憎悪からミソジニーが加速していないか」というくだりでは、ついつい小山晃弘(狂、会計士じゃないほう)さんを思い出して笑ってしまった。同誌ではインセル・ミグタウ方面への言及は少ないが、原始仏教のからみから佐々木閑氏や島薗進氏の論考は関連付けて読めるのではないかということであった。
最後にレオ・ベルサーニ『親密性』が紹介されていた。ベルサーニは千葉雅也氏がどこかで紹介していたので名前は知っていたのだが、けっこう過激なこと言うひとなんだなあ。千葉氏が、自分は徹底してアンチソーシャルだと言うのがなんとなくわかった気がする。
こうした座談会形式だと話があちこちに脱線して、その過程でいろいろな本が紹介されるのがいい。そこでたびたび言及されたのがこの本だった。
生身の身体とモノの境界が無くなって自我が溶解する「ソラリスの海」のようなものがやってくると本気で考えているわけではないが、テクノロジーが加速して労働から解放されるという左派加速主義の世界観にリアリティを与えてくれるかもしれない。
こうした本のカタログを見る快感を知ったのは『EV. Cafe』を高校生のときに読んだときだ。
村上龍と坂本龍一がゲストをむかえて鼎談するというもので、そのゲストは柄谷行人、浅田彰、吉本隆明、河合雅雄、蓮實重彦などなど錚々たるメンツであった。今やニューアカブーム華やかなりしころの夢の跡といった感じであるが、世の中にはこんなにたくさん面白そうな本があるのかという興奮はまだ身体のどこかに残っている。『闇の自己啓発』はぜんぜん啓発的ではなかったが、そういう感覚を思い出させてくれた。