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『トゥモロー・ワールド』は資本主義リアリズムという名のディストピア

資本主義にたいする絶望感をわかりやすく表現したことで著名なマーク・フィッシャー『資本主義リアリズム』の第1章に映画『トゥモロー・ワールド』が紹介される。



この映画の世界ではもう10年以上も原因不明のまま人類は出産不能になっている。未来の世代もいないのに文明活動だったり紛争だったりをあいかわらず人類は繰り返している。

そんな中、主人公のクライブ・オーウェンやジュリアン・ムーアは10数年ぶりに妊娠した少女を守るべく奮闘するという物語なのだが、なにか虚しさが漂う。

これを現在急速に少子化が進行する先進国の未来を象徴していると捉えないのは困難だろう。次の世代がないと思うだけで人間のほとんどの行いは虚しいと感じられてしまう。

もちろん現実には天変地異でもないかぎり人類とか民族が十年単位で滅亡することなんてないわけだが、少子化が進行するといきつく先はこういう世界観なのだとこの映画は教えてくれる。

とくに印象的なのは、主人公が従兄弟の役人を訪ねたときに「未来の世代などないのに文化遺産を集めてなんになるんだ?」と問うシーンである。こういう絶望感がこれでもかといわんばかりに繰り出されてくるので非常に悲しい気持ちになってくるのである。

監督は新作『ROMA』も好評だったアルフォンソ・キュアロン、長回しや乾いた画質が物語に絶望感とリアリティを与えている。また僕の最も好きな英国人俳優のひとりマイケル・ケインの活躍も嬉しい。


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はむっち@ケンブリッジ英検
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