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"お前のNoは無意味"
今まで人に対して「沼」という現象を実感したことはなかった。
好きな芸能人や歌手はそれなりにいたが、例えば飛行機で行かないといけないような場所であるイベントに行きたいと思う程ではない。
しかし去年「No No Girls」というオーディション番組に夢中になっている自分がいて、隅々まで見たくて有料サブスクまで加入してしまった。
実現しなかったが、横浜で開催されたオーディションの最終審査にも行きたかった。
現在、KOHARUひいてはHANAの沼にハマっている。
No No Girls
「No No Girls」はSKY-HIが社長を務めるBMSG主催のガールズグループ公開オーディション番組で、「ちゃんみながプロデュースする」というのに惹かれて、毎週金曜日に配信されるYouTube見始めた。
SNSの発達により昔より好きなアーティストが身近になったとはいえ、歌っていない姿を見ることのできる機会はそう多くない。
全世界にいるNoと言われてきた人
あなたの声と人生を聴かせてください
「身長、年齢、体重要りません」というのが如何にもちゃんみならしくて、素敵。
『美人 』という楽曲に代表されるように、ちゃんみなはルッキズムと闘ってきた。またジャンルレスな彼女の楽曲を受け入れずカテゴライズしたがる人々によって、沢山の"NO"に向き合ってきた。
そんなちゃんみなに救いを求めるかのように集まってきた女の子たち。
"NO"を抱えて傷付いてきたガールズが、ちゃんみなの肯定的で真っ直ぐで丁寧に紡ぐ言葉によって、表情がみるみる変わっていく様はまるで魔法のようだった。
「No No Girls(ノーと言われる女の子)」ではなく、「No "No Girls"("ダメな女の子"じゃない)」なのだということには、途中で気がついた。
ちゃんみなが力強く発するメッセージが、懸命に自分の人生を生きる女の子たちに確かに届いて変化していく映像は、どんな作り物のドラマよりも劇的で、心が揺れ動いた。
KOHARU
とりわけ私の目を引いたのはKOHARUというちゅるちゅるパーマの女の子だった。
19歳にしてダンス歴15年、ただし歌唱歴はなし。可愛くて、表情豊かで、よく笑い、ひょうきんでお茶目。なのに色気たっぷりのダンスをする。
だけど私にとってKOHARUが気になるきっかけになったのは見た目ではなく、チームのメンバーが悩みを告白するシーンで、手に持っていたノートとペンを棚に置いたことだった。
常々、娘に話しかけられた時、私は見ていたスマホを持ったまま聞いてしまうことがある。「ちゃんと聞いて貰えない」と感じる娘は何回も話しかけてくる。きちんと向き合えば、彼女が安心すると分かっているのに。
些細なことだったが、そういう自分の事象とリンクして、その何気ない所作に感心した。
それからもKOHARUの挙動は、彼女の2倍弱生きているはずの私を感動させ続けた。
3人でグループを組んだ4次審査において、少しだけ孤独を感じたKOHARUがグループメンバーに語ったのが以下の言葉だ。
2と1という数字を感じながらいってしまうグループと3という数字でいけるグループで、絶対差が生まれると思うの
なんて本質的。19年しか生きてない内の、どこで身に付けた感覚なのだろう。
私は夫と娘との3人家族で、娘に「世界一大好きだよ」と言う。だが、娘に態々言わないだけで夫のことも世界一大切で、誰かが孤独を感じる家族は私の理想じゃない。
だから結婚して12年になる夫とも娘の前でハグをする。そうすると娘が寄ってくるので、3人でミルフィーユみたいに重なりながら、ギャーギャーと騒いでじゃれ合う。
娘が巣立つまでは3人チームでいたい。これもやはり、これまで言語化してこなかった感覚を明確にしてもらえたような気がした。
また横浜Kアリーナで行われた最終審査の結果発表時のこと。
正真正銘、これが最後の審査で名前を呼ばれれば、ちゃんみながプロデュースするガールズグループのメンバー入りが果たせるという場面。逆に言えば、名前が呼ばれなかったら今回のオーディションは落選という場面。
後のインタビューで分かったことだが、KOHARUはこの時、「5人のグループになるだろう」と勝手に思っていたらしい(実際には7人だった)。
通過者がひとりひとり名前を読み上げられていく。枠が埋まっていく。呼ばれないメンバーの顔が強張り、不安そうにしている中、KOHARUだけが笑顔で拍手を送る様子が通過者越しに映る。
「5人になるだろう」と思っていたはずなのに、5人目に呼ばれたMOMOKAにも笑顔で拍手していた。その笑顔が頑張って作ったものだったのか、自然なものだったのかは分からない。しかし確実に優しさと慈愛に満ちた笑顔で、私は感嘆する他なかった。
6人目に呼ばれ、KOHARUは「HANA」という名のちゃんみなプロデュースのガールズグループにメンバー入りした。
KOHARUの通過はダンスの実力や歌唱の伸び代はもとより、人間性によるものが大きいだろうと思う。
カメラに映るオーディションの様子は、ガールズの奮闘記のほんの一部に過ぎない。1年間努力を積み重ねたうちのたったの約16時間。それなのに数えればキリがない程に、彼女は実直で聡明で、仲間想いだった。
"人間性"ごと好きになる
今まで画面の向こうのアーティストの性格など、私にとっては重要ではないと思っていた。
もちろん、歌詞や曲から感性を受け取っていて、それ自体が内面を開示してくれたものなわけで、それこそに惹きつけられているのだから性格が重要ではないと言うのは些か語弊があるかも知れない。
しかしながら実際に会うわけでもなければ友だちになるわけでもないのだから、「アーティストが"見せたい"ものが自分の好みとマッチしていればそれでいい」という意味において、"見えない"部分は重要ではないと思っていた。
思っていたが、「No No Girls」からHANAに至るまで審査毎のチームのVLOGやインタビュー、生配信の動向を追っていると、動画の字幕にすら上がらないようなメンバーへのKOHARUの小声が、肯定的で包容力に溢れている。
私の目と耳が無意識に彼女を追いかけているせいで、KOHARUのその性格の良さに一々気付いてしまい、どんどん好きになっていくことは不可避という他ない。
最近では私も彼女やちゃんみなを見習って、人に肯定的な声かけを心掛けているほどである。
そもそもアーティストの素を垣間見る機会など殆どないが、昨今の所謂サバイバル番組が活況である要因はやはり楽曲だけでなく、そういう"人間性"ごと好きになってもらおうという狙いだろう。
事務所としてはファンが付いた状態から始められるというのはビジネス的にも見通しが立ち易い。
横浜Kアリーナで行われた「NoNoGirls THE FINAL」最終審査(1月11日)は会場には2万人が駆けつけ、翌日の一度きりの整音なしのYouTube配信(1月12日のみ)は同接56万人にのぼった。もちろん「THE FINAL」で初めて「No No Girls」を知った人も居ただろうが、多くが3ヶ月分の映像を追いかけ、推しは違えど彼女たちの人間性に惚れ込み、ひとりひとりが幸せになって欲しいと願って止まないファンだっただろう。
己の"NO"と闘い懸命に、ひた向きに目標に喰らいつくガールズに、其々のファンが何かを重ね、共鳴し、夢中になる。
プレデビュー曲「Drop」のMVは約10時間程で100万回再生を超えた。ガールズグループ戦国時代に新たなうねりを、まだデビューもしていないHANAが創り出している。
ちゃんみなとHANA
このグループの強みはなんといっても、ちゃんみなが"母"であることだ。
カテゴライズできないジャンルレスな歌唱と楽曲は、HANAにも継承されるだろう。
更にちゃんみなの言葉そのものが極上のメンタルケアであることは、「No No Girls」を追っていた人間には周知の事実だ。
先日インタビュー記事でHANAのメンバーであるCHIKAが「嘘のつけないオーディションだった」と語った。
ちゃんみなに対しても、自分に対しても嘘をつくと見抜かれてしまうほど見てくれた、と。産前産後の彼女がそれほどに気を配れる精神力には頭が上がらない。
「命をかけろ」とよく番組の中でちゃんみなは言っていたが、同時に彼女自信命をかけてガールズに向き合っていたように思う。
命をかけて向き合ってくれる人が発する言葉は、どんなに厳しくても成長に繋がり、結局は自信としてメンバーや引いてはグループに返ってくる。ましてやちゃんみなは決して否定しないと決めているのだから、尚更ポジティブに輝くはずだ。そしてその愛の好循環はやがてプロデューサーであるちゃんみなの元に帰るだろう。
HANA結成後の雑談でKOHARUがCHIKAに「最初と違う人みたい」と言った。
だが、それはKOHARUにも言えるし、メンバー全員に言える。本当にみんな変わった。
ちゃんみなの言葉の魔法で、審査を進んでいく毎に自信を取り戻し、それぞれ精悍な顔つきになっていく。
親子として最高の形がそこにあった。
まとめ
"NO"のない世界を作るのは不可能だときっと彼女たちは分かっている。
しかしその中で個人の"NO"は"YES"に変えていけることも、彼女たちは身を持って体験してきた。
それを経て今度は誰かがそっと抱えている"NO"を"YES"にしていく目標を持って、アーティストという茨の道のスタートラインに立った。
ちゃんみなが「No No Girls」のために制作したテーマソング「NG」の中に"お前のNOは無意味"という歌詞がある。
悲しいかな、人気になると必ず湧くアンチの"NO"。
しかしそれに応戦するのではなく、"お前のNOは無意味"だと無効化し、ちゃんみなとHANAはより多くの人を"NO"から救い出していくだろう。
私はこの沼にどっぷりとハマったまま、ちゃんみなとHANAがつくる"YES"な世界の住人でありたいと切に想う。