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ファスナー選択の盲点
メーカーや設計者の盲点となりがちなのがファスナー(締結部品)の選択です。例えば自動車生産においてファスナーなどの製造副資材品はCパーツと分類されます。それに対してAパーツは車体やパワートレインなどの基幹部品、Bパーツはメカニカル部品や制御部品です。このCパーツという名称からも、その優先順位の低さがうかがえます。
ボルト、ナット、スレッド、ワッシャー、アンカー、リベットetc. こうした締結部品全般がファスナーと呼はれています。どのファスナーも2つ以上の部品、材料、またはオブジェクトを接合する重要なフィクスチャー(固定具)です。たった一つのファスナーの不具合から、製品が機能不全に陥ったり人命にかかわる事故が発生したりします。軽視すべき理由はありません。
これからファスナー選択で盲点となりやすい5つのポイントをご紹介します。
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1.価格優先の選択
ファスナー選択の際、低価格品の節約効果に魅了されがちです。しかしながら、実際には低価格ファスナーの節約効果は非常に限定的です。なぜなら、生産時の組み立てサイクル時間が長くなるにつれて、低価格ファスナーのコストメリットはすぐに失われてしまうからです。
そして、価格を優先した(つまり、どこかの段階である程度品質を妥協した)ファスナーを採用すると、品質管理検査には合格したのに、完成品を顧客が使用する段階で予想もしなかったトラブルが起きる可能性が高まります。
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2.設計に適さないファスナー
設計に適切なファスナーを選択することは、完成品の完全性、強度、剛性、耐久性に大きく影響するゆえに非常に重要です。種類・形状・素材や使用数が不適切なら、ジョイント部に亀裂や変形、破壊を生じさせてしまいます。
例えば、ステンレスだからといって全ての環境に耐えらるということはなく、また、その種類によって耐食性も異なります。選択を間違えると使用環境に耐えられない事態が生じます。
ナットを溶接するなら、溶接用に適した設計がなされている溶接ナットを利用します。普通のナットを溶接すると強度が落ちるので危険です。
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外観の似ているデンデンボルトとアイボルトですが、重量物の吊り下げができるのはアイボルトです。
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不正な改造やいたずらを防ぐ必要がある製品では、管理者以外はアクセスできないよう特殊なリセスを持つねじを検討すべきです。
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多種多様なファスナーからの選択は、使用している材料の種類と、結合または接続している部品やサブアセンブリの種類や性質に基づいて行わなければなりません。ファスナーの選択は製品の安全性に直結します。
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3.接合部の異種金属
ファスナーの素材金属がベースの金属と異なり、湿気や湿気などのさらされる製品では、適切な対策が取られていないとガルバニック腐食(異種金属接触腐食)が発生します。ガルバニック腐食は次のようなメカニズムで発生します。
接触している2つの異なる金属が雨水や海水などの電解液にさらされます。すると、自然電位(金属それぞれが固有に持っている電位 腐食電位ともいう)が低い金属(卑な金属と呼ぶ)側が還元電極 (アノード) に、もう一方の自然電位の高い金属(貴な金属)側が正電極 (カソード) になって回路を形成。電気化学反応を引き起こし、最終的には電気腐食となります。ガルバニック腐食では、その環境下で自然電位が低い方の金属(卑な金属)側で腐食が加速します。
対策として、水分との接触を避ける設計や、ファスナーとワークを同一素材あるいは自然電位差の少ない組合せを考慮します。樹脂ワッシャーや絶縁シート等を用いて異種金属同士を直接触れさせない材料間の絶縁も有効です。適切なめっきやコート、塗装等も活用できます。
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アルミニュウムと鋼製ボルトの組み合わせ
4.不適切なトルク
不適切なトルクとは、ねじの締め付けトルクの過不足、平たく言うと、ねじの締めすぎや締めなさすぎを指します。クランプ力(予張力 軸力とも言われます)が高すぎると、ファスナーに過度なストレスがかかり、裂けたり、壊れたりする可能性があります。逆に予張力が低すぎると、振動等でねじが緩んだり外れたりする原因になります。
接合部や部品がひび割れたり、破損したりすることなく、確実に固定された状態を維持できる理想的な量の予張力を見つけてください。それを生み出すのに適切な締め付けトルクを定めることが目標です。手元にあるエンジニアリングマニュアルのトルクチャートは良い出発点です。そこから始めて設定トルクの有効性をテストで確認することで目標は達成できます。
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5.間違った材料グレード
ファスナーは、炭素鋼やステンレス鋼、またチタンなどの非鉄金属、さらにはプラスチックやセラミックのような複合材料まで、様々な素材から作られます。そして、これらの素材ごとに等級、すなわちグレードが存在します。ファスナーのグレードを選択するときは、引張強度、疲労強度、せん断強度の観点からグレードの機械的特性を考慮してください。間違ったグレードのファスナー素材の選択は、製品の早期故障につながる場合があります。
素材グレードの示す機械的特性とは別に、さまざまな環境条件や動作条件下でそのファスナー素材がどのように反応するかを理解することも重要です。なぜなら工業製品は腐食環境にさらされることがよくあるからです。実のところ、適切なコーティングが施されていない鋼製ファスナーは簡単に腐食してしまいます。防錆・防食や耐摩耗性等を高めるコーティングを実施することで、ファスナーを製品寿命まで保たせることができます。亜鉛めっきやニッケルめっきは、ファスナーを腐食から保護するのに役立つコーティングの一例です(ファスナーのコーティングについてはこちらもご覧ください)。
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正しい選択をする
設計でファスナー選択を軽視するという、ありがちなミスを犯さないようになさってください。低品質のハードウェアを使用したり、「すべてのフィクスチャーはどれも同じ」と思い込んだりすると、故障が発生する可能性が高まります。
最適なファスナーを選択するための基本的なルールは次の通りです。
● ファスナーは常に組み立てられる部品と同等か、それ以上のものでなければならない。
● ボルトで固定されたジョイントの締結部は、絶対に弱点になってはならない。
● 組み立てられたファスナーは、常に制御可能で交換可能でなければならない。
適切な形状、そして材料グレードの高品質な締結資材を使用すれば、非永久的な接合部は無傷のまま製品寿命まで維持されます。ファスナーは小さなCパーツですが、その正しい選択は製品の完全性と企業の評判に大きく影響します。