ねじの話「ファスナー材料 金属 第一回 金属とは?」
「金属」は幅広く利用されている物質で、ボルト・ナット等のファスナーにおける主な素材です。では、「金属とはどんな物質?」と尋ねられると、もやっ、としてしまうかもしれません。今回の「ねじの話」は、ファスナーによく使われる鉄鋼金属を中心に金属を取り上げます。初めに「金属」とはどんなものか考えてみたいと思います。
ねじの話 ファスナー材料 金属
金属とは
「金属」は、一般に不透明で特有の光沢(金属光沢)を持ち、電気伝導性および熱伝導性に優れ、強度が高く、延性(引っ張ると細く延ばすことができる)や展性(薄く広げることができる)に富み、常温では固体(例外は水銀)の物質とされます。そして「金属材料」は、主成分として金属元素を含み、その特有の物理的・化学的特性を持つ材料のことを指します。金属の特性は金属材料が様々な産業や用途で使用される理由となっています。
例えば鉄は、地球上で豊富な金属元素の一つというだけでなく、非常に有用な強度や靭性・伸展性をバランスよく持っているため、最も広くかつ有用に活用されています。また、アルミニウムは精錬の難しさから人類が利用できるようになったのは比較的最近ですが、埋蔵量は鉄を上回り、軽量で耐食性に優れ自動車産業や建築業界で重宝されています。そして、銅は鉄よりも古くから利用されており高い電気伝導性を持ち、今でも電子機器や通信産業で幅広く使用されています。
金属元素
金属の性質はそれを構成する元素によります。その性質を与える元素群を「金属元素」と呼びます。2023年現在で国際的に認められている118種類の元素のうち、金属元素と呼ばれるものは約80種類。意外と多い、と思いませんか。
金属元素は、「金属結合」と呼ばれる独特の方法によって結びつき、結晶構造を作ります。原子同士のこの結合方法が、金属の特性である導電性や熱伝導性や強度、展性や延性をもたらします。
金属結合
金属原子はいくつかの電子を出して陽イオン(金属結晶の格子点に存在する正電荷を持つ金属の原子核)と、自由電子(結晶全体に広がる負電荷をもったもの)となります。金属は一般的に、外部軌道に1個または数個の電子を持つ元素から構成されます。金属原子の最外殻電子は、弱い力で原子核にとどまっており、金属原子が寄り集まってひとかたまりになると、この最外殻電子は「自由電子」となります。この状態はプラスに電荷されたイオンの周りをマイナス電荷である「電子の海」が覆っていると表現されます。規則正しく整列した陽イオン(金属結晶)内の「電子の海」を自由電子が自由に動き回ります。
金属では原子の並びが動いた際に、原子核の周りを取り囲む自由電子も動くため、原子間の結合が切れることなく、ずれることができます。それゆえ、金属は展性や延性が高いと考えられています。
金属結合では、原子集団である結晶場で結合電子を共有しいるのに対し、ほとんどの分子を構成する共有結合では2原子間でしか共有電子が共有されません。
参考:金属結合 共有結合 イオン結合
金属結合:
金属結合は金属原子が自由電子を共有して強く結びついた3次元的な結晶構造を形成します。自由電子は金属結晶内を移動し、結晶構造内の他の金属原子と共有されます。これにより、金属結晶内の自由電子が外部からの力を受けると原子間を移動しやすいため、導電性と良好な熱伝導性を持ちます。また、外力による結晶構造体の変形に対して柔軟対応できます。
共有結合:
共有結合は非金属元素同士の原子が電子対(共有電子対)を共有することで結合し分子を形成します。非常に強く、また、結合を作る電子はなかなか動くことができないので電気伝導性も非常に低いです。
ダイヤモンド、ケイ素(シリコン)、二酸化ケイ素、炭化ケイ素などは共有結合によって形成される共有結合結晶を形成します。非常に硬く、融点・沸点が非常に高いのが特徴です。
イオン結合:
イオン結合は、陽イオン(カチオン 最外殻の電子を外部に放出して安定している)と陰イオン(アニオン 最外殻に電子を外部から受け取って安定している)の間の静電的な引力、クーロン力によって形成されます。金属元素は陽イオンになりやすく、一方で非金属元素の多くは陰イオンになりやすいため、イオン結合は主に金属元素と非金属元素の間で形成されます。イオン結合を持つ物質は一般的にイオン結晶を形成し、高い融点と溶解度を持ちます。
金属結晶構造
金属の結晶構造は、金属原子が密に詰まった次のような三次元構造を持っています。
体心立方格子構造
Body-Centered Cubic(BCC)
体心立方格子は、立方格子の一種で、各角および立体の中央に原子が配置されています。各角に8つの原子があり、立体の中央にも1つの原子があります。この
格子は、一つの原子が他の8つの原子と共有されるため、原子数密度は相対的に低くなります。鉄(Fe)などの金属に見られる結晶構造です。
面心立方格子構造
Face-Centered Cubic(FCC)
面心立方格子は、各立方格子の面に1つの原子が配置され、各角にも1つの原子が配置されています。これにより、各セル内には合計4つの原子が含まれます。面心立方格子は、多くの金属(例:アルミニウム、銅)や多くの結晶性材料で見られる一般的な結晶構造です。
六方最密格子構造
Hexagonal Close-Packed(HCP)
六方最密格子は、稠密六方格子構造(ちゅうみつろっぽうこうしこうぞう)、または単に六方格子構造などと呼ばれる、六角形の単位セルが球形の粒子や原子を最も密に詰める格子構造です。中心に1つの原子があり、その周りに6つの原子が密に配置されています。六角形の単位セルを積み重ねることで形成され、ベリリウムやチタンなどの元素に見られます。
このように金属元素により固有の結晶構造を持ちます。
自由電子
金属結合の項でも触れましたが、金属の特性は「電子の海」の中を自由に動き回れる自由電子の存在によって説明されます。この自由電子の流動性が、金属の特性である導電性や熱伝導性を生み出していると考えられています。
金属光沢にも自由電子が関与しています。金属中の自由電子はプラズマ振動という特異的な振動をし、金属の表面に当たる光の振動数がプラズマ振動数(自由電子がプラズマ振動をする限界の振動数)より小さい場合、自由電子は光の振動数に従って振動し、自由電子はもとの光と同じ振動数の光を再放出します。この跳ね返された光の輝きが金属光沢です。プラズマ振動数は金属の電子密度によって異なるので、金属によって反射できる光の波長範囲が異なり、銀やアルミニウムは白銀色、金は黄金色などと、それぞれの金属により独特の色味を持つことになります。
金属とは まとめ
ここまでの話をまとめてみましょう。様々な産業や用途で使用される「金属」または「金属材料」は、金属光沢を持ち、電気伝導性および熱伝導性に優れ、強度が大きく、延性や展性に富む、水銀という例外はありますが常温では固体の物質です。これらの金属の性質には「自由電子」が大きくかかわっており、金属元素特有の「金属結合」がこの「自由電子」と立体的な結晶構造を生み出しています。
興味深いことに、鉄は温度により結晶構造を変え、鉄をベースにした合金であるステンレス鋼はその種類によって結晶構造が異なります。このことについては今シリーズの第二回「鉄鋼金属」と第五回「ステンレス」でより詳しくお話しする予定です。
次回の「金属第二回」では、私たちの生活と(そしてファスナーとも)非常に関係の深い「鉄」について考えてみましょう。
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