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ワークショップ第07回『初等関数の複素関数への拡張』【数学部】[20210621-0704]

皆さんこんにちは!数学部部長のHirotoです.記事を上げるのが遅くなってしまい申し訳ないです.

今回は「初等関数の複素関数への拡張」について,部長である私がまとめたPDFをコミュニティに投下するという形でワークショップ(以下WSとする)を行いました.

本来であれば,部内でしっかりとdiscussionを行い,その上で役割分担してWSを行うべきなのですが,今回はその時間を十分に取ることができなかったため,部長のワンマン発表となりました.

具体的には,以下の日程で平日一日につき一つの内容をまとめたPDFを配布しました.(土日は質問タイムという形にいたしました.)

6/21: 自然数乗から有理数乗まで,高校生のうちに本当はやっておくべき「べき」の拡張
6/22: 行列とベクトル
6/23: 一般の微分(二変数まで)
6/24: 複素微分とは
6/25: 級数の一般論
6/28: 指数関数
6/29: 三角関数(前半)
6/30: 三角関数(後半)
7/1: 逆関数・対数関数
7/2: 一般のべき(6/21との整合確認)

前半一週間が一般論の準備で,後半一週間が今回のメインテーマという構成になっています.

このlog(対数ではない)では,私が投下したPDFを掲載することは致しませんが,思想的に大事な部分や,コミュニティメンバーと話題になった箇所を切り取ってご紹介したいと思います!

6/21

自然数乗から有理数乗まで,高校生のうちに本当はやっておくべき「べき」の拡張

Hiroto
6/21まとめ
・高校時代に有理数乗まで「べき」の拡張をする.計算法則は今までの指数法則を適用するだけであるので,定義と法則さえ押さえてしまえば計算はできる.
・しかし,しっかりと自らの手で指数法則が拡張されていく過程を追ったことはあるだろうか.意外とその経験がある人は少ないのではないかと思う.その体験を追体験していただくためのpdfである.ちなみにバチコリ面倒.

有理数乗までを初等的に定義しました.高校の教科書で触れてはいるけど紙面は割いていない部分を,ネチネチと書きました.

この内容に関するアンケートと解答がこちら.

「べき(有理数乗まで)」の定義に関して(高校時代から今まで)

①理論(上のように)を固めてから計算演習をした:該当者なし
②とりあえず受け入れて計算演習をし,後から理論を固めた:@Hiroto, @蜆一朗, @ていりふびに(3人)
③とりあえず受け入れて計算演習をし,感覚で納得した:@Yujin Yonehara, @yuuma, @Shun, @イヤープラグさざなみ, @せきと, @Takuma Kogawa, @いいだ, @マッキー, @GZ, @Tetsu, @谷本 (11人)
④計算演習はしたが,腑に落ちないままここまできた:@さかぼう ver.抹茶, @ほうむたろう, @いんげん侍(3人)
⑤計算演習をする機会がなかった:該当者なし
⑥正直記憶に残ってなく申し訳ありませんが、③に近いと思われます。 :@野澤, @コバ(2人)

皆さん,率直に答えてくださいました.ありがとうございます.

私の場合,高校までで数学的に納得していないが問題だけ解けるようになってしまった概念を,大学以降の学びで理解し直せて楽しいのですが,数学にそこまで興味のない人からすれば確かにそこまでコストを払ってまで理解したくはないよ,というのが正直なところだと思います.私も数学以外にはそこまで情熱が湧かないですし,結局この辺りからは趣味趣向の領域なのかなと思ったりもします.

また,社会人になって使わなくなると忘れるというのも非常にリアルだと思います.私も,興味のない教科の内容を大人になっても覚えているかと言われたら怪しいので,学校教育とはなんなのかを考えさせられます.結局好きな教科を見つけよう!ってのが重要なのかもしれませんね.

Hiroto
大学以降の数学を経験した人向けの質問
Q1.2 このノリで「実数乗」まで自然に拡張するとしたら,どのようにすれば良いでしょうか.(複素関数等を持ち出さないという意味です.)これは僕がしっかり理論を整備しようとして挫折した箇所なので,教えていただきたいという意味での質問です.(僕の挫折の詳細をスレッド内に記します)

HIroto
今ちゃんと考えたら自分なりに解決できました!後で完成形を上げますが、この質問は残しておきます。このスレッドに案を挙げてくれると嬉しいです!

Takuma Kogawa
有理数乗までの操作で実数乗を証明するということでしょうか。極限操作をしてもよいなら、(無理数)+ε=(有理数)となるε>0がいくらでもとれる(?)から、a^ε→1を使って有理数乗の操作から実数乗も証明されるイメージはあります。お手上げです。

Hiroto
そうですね、「証明する」というよりも、「自然に拡張する」といったニュアンスが近いでしょうか。
私の持っている手法では、「実数を有理数列の極限」と捉えています。どの方法にせよ、極限操作から逃れることは原理的に不可能だと思っています。

ていりふびに
任意の無理数xに対してxに収束する単調増加な有理数列を取ることができます。
この有理数列を使って極限で定義するというのが大まかな流れだったと思います(議論すべきことがたくさんありますが...)。
指数部分を無理数に拡張する方法として高校の教科書にもこれに近い説明が一応書かれていることがあります。
ここで大事なのは実数において有理数という部分集合が稠密であるということだと思っています。最初は稠密性のありがたみがわかりませんでしたが、今は複雑な対象を単純な対象で近似するための性質だと考えています。

Hiroto
@ていりふびに おっしゃる通りだと思います。有理数の稠密性から実数の10進(10に限らなくてもよい)展開が得られるので、高校で若干触れた無理数乗の議論は、有理数の稠密性の匂わせだったとも言えますね。

今回のWSでは,実数乗に関しては複素数乗と同じタイミングで「級数」を経由して定義するのですが,一応初等的に実数乗まで拡張する方法はあるため,それに関する問題でした.

「実数は有理数上稠密である」ということが肝要だとていりふびにさんはおっしゃっていますが,その通りだと思います.それにより,数列の極限操作で実数乗までをうまく定めることができるわけですから.

一般に,有理数から実数の間の壁は「連続性の有無」にあると思っているので,実数固有のお話をしようとすると,どこかで解析的操作が入り込むことになると思います.無限級数も解析的操作ですし,土台を整備しようとすると実数の連続性は避けては通れないと思います.

6/22

行列とベクトル

Hiroto
6/22まとめ
・6/23に扱う「一般の微分」では,そもそも対象が二変数(ベクトル)であるし,微分係数が「行列」となる.今回のpdfはその前座としての知識の整理である.証明をつけなかった命題も多いが,納得できるように手を動かしてみることを推奨する.
・現役で理系の方は新しく学べることが少ないと思われる.正則であるための条件なんかを,pdfの範囲から逸脱して考えてみる(or調べてみる)と面白いかもしれない.
調べた結果はこのWSルームに投下してくれると嬉しいです!

Yujin Yonehara
実数乗については何もわからなかったので、行列の方で失礼します。
久々に線形代数の教科書を眺めていたら、2次の行列が正則である必要十分条件はad-bc≠0と書いてました。ということは、n次の場合は、その行列式が0じゃないことが正則である必要十分条件になるんじゃないかと思います。自分1人では証明できそうにないですが。
そういえば大学の授業で、物理では「ネイピア数の行列乗」が出てくる分野があると聞いたことがあります。スピンを考慮すると云々・・・と先生が仰っていました。指数について、自然数→整数→・・・→複素数まで拡張したくなるのは分からなくもないですが、行列なんぞ乗っけたくなるのは想像するだけで恐ろしい世界です。

ていりふびに
正則か確かめるには行列式を計算することが多かったですかね。とりあえず計算すればでるので。もしくは行か列が一次独立かというのも見ればわかることがあるので利用してました。

Hiroto
@Yujin Yonehara むちゃくちゃ今更ですが,返信を返した気になっていて返し損ねていたことに気づいたのでこっそり返します笑.
正則条件についてはおっしゃる通りです!証明に関しては「余因子行列」がキーワードです.
行列乗に関しては,指数関数の級数表示がやはり説明しやすいですね.2週目の1日目にあげた指数関数の定義の,変数部分に行列をぶち込んでおわりです笑.収束するかどうかの判定も概ね同じなので意外と簡単です.「拡張」という観点から言うと,本当に級数は強いですね.とりあえず級数の形を用意して,拡張したければぶち込めばいい,という流れなので.

Hiroto
@ていりふびに 最初に出会ったのが斎藤線型なので,結構掃き出し法シンパなんですよね..笑
行列式の計算とは違った面倒臭さがありますが,個人的には具体計算は掃き出しで,理論的には行列式という印象があります.

行列の正則条件で少し盛り上がりました.また,行列乗に関して話題が挙がりました.これに関しても,級数としての指数関数の表記が非常に役に立つので,やはり「級数は拡張に強い」というのは間違いではないようです.

6/23

一般の微分(二変数まで)

Hiroto
まとめ
・6/24に行う複素微分のためには,まず多変数での微分を学ぶことが必要である.複素微分に必要な部分のみを抽出してまとめた.
・複素微分と二変数二項ベクトル関数の微分との比較は非常に重要であり,6/24はその比較を中心に行う予定.
Takuma Kogawa
6/23の多変数関数の微分について教えてください。微分と一口で言っても全微分と偏微分があると思いますが、テキストで言われている微分可能とは全微分可能のことでしょうか。R2→R2については手持ちの資料の範囲外で、理解が追いついていません。

Hiroto
その通りです!
杉浦の解析入門では単に「微分可能」と書かれておりますが、混同を避けるには全とつけた方が良いと思います。杉浦を主なタネ本としたため、分かりずらくなってしまい申し訳ないです。
余談ですが、杉浦はself-containedではあるものの、独自の記法が少し多いような気がします。昔の主流だったのか、著者の趣味なのか分かりませんが、、。

補足すると,変数が2個以上になったとき,微分はいくつかのルートで拡張なされます.「偏微分」というのは有名かと思いますが,「(全)微分」という概念の方が,より微分の本質的意味を反映した概念と言えます.6/23は,全微分の方に話を絞って詳細に説明しました.
ちなみに,全微分できる状況のとき,偏微分は自然に出現します.

6/24

複素微分とは

Hiroto
まとめ
・6/23に学んだR^2→R^2の関数の微分との違いを抑える.違いと言うべきか特別なものと言うべきかは微妙であるが.
・等角写像と記した箇所に関してはぜひ目を通してほしい.yuuma氏が物理学部のWSにて取り扱うつもりだそうだ.

6/25

級数の一般論

Hiroto
まとめ
・級数の一般論と、それに伴う整級数のお話。「収束半径」みたいな話が出てくる(文中のR)。
・かなり「ハード」というか分量が多くなってしまった。土日にでも暇な時流し読みして頂きたい。
・とはいえ2週目の根幹をなす議論ばかりであるので、後に楽しむための伏線と思って見てほしい。

6/28

指数関数

Hiroto
まとめ
・先週の武器を振り回して,指数関数を手作りする.今まで扱っていた指数関数は一旦忘れているテイで振る舞っていることに注意.その上でちゃんと6/21との整合も確かめている.
・三角関数の手作りには指数関数との関係が欠かせない.指数関数の性質はまた何度も確認し直すことになる.

6/29

三角関数(前半)

Hiroto
まとめ
・複素関数として、三角関数をいじくり倒す。タネ本である杉浦解析の記述よりもかなり丁寧に記述した。とくに、微分可能であるか判定する部分はかなり地に足を付けた証明になっていると思う。
・実関数として、どのような振る舞いをするのかは6/30の後半へ。

6/30

三角関数(後半)

Hiroto
まとめ
・皆さんが周知の実関数としての三角関数の性質が明らかとなる.特にπの定義の過程は注目に値するだろう.円周の長さという概念を後回しにするとこのような定義になるのである.
・次回は対数関数を扱う.そのために必要な逆関数の一般論もついでに扱うこととする.

ここで,[0, 2π)から単位円周上の点へのe^ixによる写像が,連続で全単写であることを示す問題を提示しました.yuuma氏が解答を送ってくださり,そこでその解答に関連していくつか議論が行われました.
そこで出た重要な議論として「連続関数の無限和は連続関数か?」というものがありました.結論から言えば偽なのですが,偽であることを示すための反例をいくつか提示しました.

その中の一つとして,「フーリエ級数展開」を用いた例を使用しました.詳細は割愛しますが,矩形波のフーリエ級数展開を考えることで,簡単に反例を作ることができます.
偽の全称命題に関して反例をスパッと提示できるのも,数学的能力の一つだと思うので,その力も養っていきたいなと改めて感じました.

7/1

逆関数・対数関数

Hiroto
まとめ
・対数関数をまず実関数としての指数関数の逆関数として導入する。そのために必要な2命題を最初に記した。
・その後複素関数へと拡張する際、多価性を考えて、値が一意になるように偏角の範囲を絞る。その結果、主値というものを考えることができることを見る。

7/2

一般のべき(6/21との整合確認)

Hiroto
まとめ
・ついに伏線回収.1日目に定義しようとして頓挫した冪を,より強力な形で定義できた.非の打ちどころがない!
・虚数を底にした場合は,昨日の対数関数の多価性により,これまた「主値」なるものを取らざるを得ません.ケチをつけるとすればここの無理やりさ(というか恣意性?)かなぁとは個人的に思います.

大まとめ

Hiroto
今回のWSのために根本から勉強をし直したため、僕はかなり初等関数の理解が深まったのですが、皆さんも少なくとも「雰囲気」だけは感じ取っていただけたでしょうか。「ちまちまめんどくせぇことしてんなぁ〜」的なことを感じてくれていたら嬉しいです。
以下思想として重要だと思う点をいくつか。比喩で使われがちな数学的事実を味わうときに深みが出るかも?

・級数を扱う準備を少し腰を据えてするだけで、かなりのちまちました議論をすっ飛ばして有用な関数が定義できる。
・微分を多変数に拡張すると自然と「行列」が出てくる。
・複素微分とは、「特別な2変数ベクトル値関数の微分」であるという認識(コーシーリーマン)。
・三角関数は指数関数と不可分。この癒着は複素まで考えないと出てこない。
・対数関数考えたけりゃ、値を一つに絞らなきゃいけない。これも複素特有の性質。
・ということは一般のべき乗も、複素まで広げれば無理やり値を一つに絞らなきゃいけない。ストーリーが分かれば不自然ではない。

○そして初回WSでやった「オイラーの等式」は今回の理論の骨格が真にわかっていれば、特段それ単体で神のように崇め奉らなければいけないものではない。ただし、その関係が「自然」であると発見した昔の数学者には依然として敬意を払うべきだと個人的には感じる。あまりに天才すぎるので。

○ネイピア数はかなり自然。円周率はなんでそんな半端な値にしたの、、、と心から言いたくなるような定義の仕方。そして「円周の長さ」に関して議論せずとも円周率の定義は可能。円周の長さを定義するには積分やらなにやらもっと武器が必要。

以上が今回伝えたかった「気持ち」です。少しでも記憶に残してくれれば、僕としては願ったり叶ったり願わなかったり叶わなかったりです。
少し早いですが、今回のWSを締めさせて頂きます。実施したアンケなどを参考に次回のWSのテーマを決めようと思います。ご意見やご回答をくださった方、本当にありがとうございました!(次回はもっと部員の皆さん主体のWSになると思います!!!!!!!!)

前回の私のWS記事も併せて見ていただくと,この大まとめで言っている内容が分かりやすくなるかもしれません.

今回でeとπに関しては完全に解析的に正しい定義を与えることに成功しました.指数関数についても複素関数として定義できたため,その立場で眺めると,オイラーの公式(等式)が自明な式にしか見えないと思います.しかし,繰り返し述べますが,オイラーの等式が自然であること(指数関数と三角関数の関係)に「初めに気付いた」のは紛れもなく天才の所業であり,それが自然に思えるような土台を構築した先人には頭が上がりません.過度にオイラーの等式を神格化するのもどうかと思いますが,「自明ww」と切り捨てるのも個人的にはいかがなものかと思います.


以上が今回のWSのlogになります!前回のWSで広げた風呂敷を今回で大部分畳んでしまったため,次回からのネタはどうなるのでしょうか・・?乞うご期待!!

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