数少ない実話体験①ドッペルゲンガーと眠る私
学校名も変わり、もう時効だと思うので書き残す。
学校七不思議でよくあるドッペルゲンガーの噂。まさか自分が体験するとは夢にも思っていなかった。
高校生の頃、運動不足解消の為にバドミントン部に入部した。無知だった私はまさかバドミントンがあれほどハードなスポーツとは知らず、ただ「楽しそう」というイメージ一本で入った。
幸い素人部員が多く、そこそこ楽しくやっていたある日、合宿があった。
さほど実力もない部活だったからか、合宿先はなんと学校。ごはんやお風呂をどうしたかまったく覚えていないが、夜に起きたことは鮮明に覚えている。
ちなみに寝る場所は体育感で、体育用のマットを好きな所に敷いて持参したタオルケットを被って寝る、といういわゆる雑魚寝スタイルだった。
ぶーぶー文句をいいつつ、日中の練習の疲れもありお喋りもそこそこにいつの間にか皆眠ってしまった。
深夜、ふと胸元をぐいっと引っ張られて目を開けた。
なぜか隣に寝ているA子ちゃんが起き上がり、私を覗き込み、
まるで覆いかぶさるようにして無表情で私を見下ろしている。非常灯と漏れてくる廊下の明かりしかないので、うつむいたA子ちゃんの顔の中心はまっくいの影になっている。
私はびっくりして思わず目をつぶってしまった。
(A子ちゃんたら寝ぼけてる…?)そう思いたい自分がいた。
でもそうじゃないことはわかっていた。私には霊感はない。何も見たことがない。なのにA子ちゃんを見た瞬間
(これは人間じゃない)
と私の本能が叫んだからだ。自覚した瞬間、鼓動が速くなってきた。それは相手にも気づかれたに違いない。こちらが気づくと移動する。
きち、、きち、、、きち、、、
空気が削り取られるような、神経に響くような音が右足元の空間から聞こえてくる。注意深く聞くと発狂しそうな音。うごいている。怖くて怖くて、ぎゅっと目を固くつむった。
失敗した。かさばるから、なんて思わずもっと大きな分厚い毛布をもってくるんだった。むき出しの足を気にしながら私は全身の筋肉を緊張させていた。
どれくらい時間がたったのか、もう何も聞こえないし、そもそも見間違いかもしれないと思い始めてきた。それに全力で目をつむることに疲れてしまった。もうどうにでもなれ!そう思い、ばっと目を開けてみた。
私の足元にはだれもいなかった。隣のマットにも誰も寝ていない。奥に、B子ちゃんが背中を向けて寝ている。私たちはマットを三つくっつけて三人で川の字になって寝ていたのだ。いつものハーフパンツとおさげ頭のB子ちゃんの寝姿を見て、少しほっとした。
起き上がってみると、見事に全員が寝ていた。静かすぎる。出入口を見ると、閉まっている。あのドアを開けるとガラガラと音がなる。だから誰も出ていないはずなのに、A子ちゃんの姿はなかった。
翌日、私はもっと怖い事実を知った。
その時間、A子ちゃんもB子ちゃんも体育館にはいなかったというのだ。こっそり学校を抜け出して、B子ちゃんの彼氏とお喋りしに数分抜け出したのだという。私の話を聞いたA子ちゃんは青ざめて
「抜け出してる時、暑いなーと思って自分の胸元のボタンを引っ張ったんだよね、、、」と話してくれた。でもなぜ私のTシャツを?という顔をしていた。
微妙な空気を明るくしようと、その夜は体育館入口近くで寝ていたK美ちゃんが
「B子ちゃんさ、寝ぼけてなかった?ハイハイしながらすんごいスピードでこっちのマットまで移動してたでしょ(笑)」というと今度はB子ちゃんが青ざめた。
「私、そんなことしてないよ!というか寝てたの別のところだし」
「いやいや覚えてないだけだって!だっておさげにハーフパンツのいつものB子ちゃんだったもん」とK美が言うとB子ちゃんは泣きそうな顔になった。
「ゆうべは長いジャージに髪下ろしてたよ、、、」
そうだ。みんな夜は長いジャージを履いてたことを思いだした。
「あ…確かに。でもあれ?確かに見たんだけどな?笑っちゃうくらいすんごいスピードでさ…」
移動するところは見ていないが、確かに私もB子ちゃんを見ていた。こちらに背を向けて、おさげにハーフパンツの、練習の時の恰好のB子ちゃんを。
でもB子ちゃんは別の服を着ていたし、そもそもその時間は体育館にいなかったのだ。しかも寝ている場所は違う場所だった。では私が見たあのB子ちゃんは、だれだったんだろうか。
その時はだれも理解できず、怖くて深く考えたくなかったので、なんか怖いね、あはは~なんてみんなで笑ってごまかした。学校だから、そんなこともあるのかなってくらいで。
自分の姿ではないけど、これってドッペルゲンガーだよねという話で落ち着いた。学校お化けかな。きっとマネしたくなっちゃんだよね。ってこれ、だれが言ったんだっけ?
普段霊も何も見えない私が、唯一はっきりと見て、しかも複数人でみた記憶だ。今でも夢の中の出来事だったんじゃないかと思うし、思いたい。だが、あの時足元から聞こえた
きち…きち…きち…
という音ではない音を思い出すと、恐怖で眠れなくなるのだ。
(実話です。これ以外はコミュニケーションの話とビジネスアイデア妄想小説を書いています)