あったらいいなこんなアプリ② 「安心タイムライン」
後編です。
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エミはスマホを胸に抱えて公園に立っていた。
待ち合わせ時間を5分過ぎ、エミは歩き出した。
公園入口にある大きなモニュメントの前で立ち止まる。
そこにいる猫背でスマホを見ている一人の男性の姿を見つけ、近づいた。
「ジュン先輩?」
驚いたようにエミを見る男性。ジュン先輩だ。
エミはスマホをぐっと握りしめた。
「あのっ今日は先にっ約束があるんです。なので、あの」
エミはもごもごと下を向きながら言った。
もうはっきり言わなきゃダメなのに!しっかりしろ!
『作戦その①自分のペースから始めること!付き合うにしても、断るにしても。最初が肝心よ』
昨夜、アプリ「タイムライン」でエミの相談に答えてくれたのは恋愛の相談実績として星が250個もついている看護師だった。彼女は今日のこれをデートと決めつけてのアドバイスだったが、エミはそれに乗る事にした。
確かに自分は、流されやすいところがある。
今日だってそうだ。ちゃんと断るとか、いつも自分から行動を起こせない。
「あ、うん。じゃあ」
エミの言葉にジュン先輩は、残念という顔もなく、ボディバッグから何かを取り出した。
「はいこれ」
いったい何を渡すつもりなのか。おそるおそる覗き込んだ。
「え?なんで?えっえっ?」
エミは前回サキとのアニメショップ巡りを思い出していた。
エミはやっと買えた大好きなアニメキャラのキーホルダーをその日に無くすという失態をしていたのだ。
それと同じキーホルダーが先輩の手のひらに乗っかっている。
これは一体どういうことだろう?
エミの手にキーホルダーを押し付けると、
「じゃ」
唖然とするエミを置いて
ジュン先輩はどこかへ行ってしまった。
手の中のキーホルダーを見る。
これはきっと、エミの無くしたキーホルダーなのだろう。
でもどこで?
エミはその後、サキと合流した。
事情を聞いたサキは「じゃあ一人で行ってるね!これそうなら連絡して」とさっぱりしたもんだった。サキの深くつっこまないこーゆーところがエミも好きなのだが、ちょっとくらい動揺とか心配して欲しいと少し恨めしく思ってしまった。
しかし2人でお目当てのアニメショップに入り
大好きなアニメの新作グッズにはしゃいでいたら
そんなことはどうでもよくなっていた。
思うがままに言葉を口にして話せるというのはなんて楽しいんだろう。高校ではまだ、そこまでの友達がいなかった。
2店目のお店に入ったら、なんとジュン先輩がいた。
しかもショップのエプロンを付けて。
「!!!!!」
唖然として目で追うエミ。さすがにサキも気付いたらしい。
「どした?」
「あ、あの、例の先輩があの、、、」
動揺するサキの指先にいるジュン先輩を見て
サキは頷いた。そしてさらっと言った。
「あーなるほど。エミんとこバイト禁止だよね?だから学校の遠くでバイトしてる。たぶんキーホルダーは店内に忘れてたんだ。買った後もまた買おうかどうか他のやつ迷って見てたしね。忘れ物はエミのってわかってたけど、同じ学校ぽいからバイトばれるのを警戒して渡すのをためらってたんじゃない?」
なるほど。
やっぱりサキはすごい。
エミはサキが通う超進学校のことを想像した。そこはサキみたいに一瞬で理解する人ばかりなんだろうか。
「なるほど。てかさ、いつも言ってるけどひと呼吸で言わないでよ。私はサキほど頭良くないから理解するのに時間かかるの!でもなんで今さら?」
「そりゃあ」
サキは悪びれた様子もなく、クリアファイルを手にとって眺めながら言った。
「エミ、高校でアニメ好きってばれてないでしょ?」
「べつに隠しているわけじゃないけど、様子見っていうか、、、」
「お互いに秘密があるってことで安心して渡したんじゃない?」
あ。
だからバイト先近くのあの公園だったんだ、、、。
エミはハッとした。
キーホルダーはエミお気に入りのバレーボール部アニメのキャラクターだ。そして今日、ここに来たのは、このアニメの新作グッズが売り出されるからだった。
「サキあの、、、」
「ん?」
「それって、、、私がこのアニメがすんごい好きで、今日このイベントにくるって読まれてたのかな」
「店員ならイベント内容知ってるしね。そうなんじゃない?」
急に恥ずかしくなってきた。
よく知らない人に、自分の一部を覗かれたような気分。
「なんか恥ずかしくなってきた」
真っ赤になるエミ。
クリアファイルから視線を戻したサキは、エミの顔を覗き込んでいった。
「じゃあさ、エミも先輩をよーく観察しとけばいいよ。バイトしてるとこ」
「なんで!?」
「あちらの弱みも握るんだよ」
「弱みって、、、」
サキは視線をエミから商品棚に戻した。
ボールペンを物色しながら
「そんでもって、うっかり好きになっちゃってLINE交換してそのまま付き合うようなことになったらショップの裏情報を流してね。楽しみにしてる」
早口のサキの言葉を一瞬遅れて理解したエミは
「だーかーらー!そゆことをひと呼吸で言うなー!!」
顔を真っ赤にしてサキに飛びついた。
「恋愛はわかんないけど、話なら聞くつもり」
エミに絡まれながらぼそっと呟くサキ。
エミはすっかり嬉しくなった。
「ありがとう!!ハグしていい?」
「暑いから嫌だ」
サキに無理やりハグしていると、視線の向こうにジュン先輩が見えた。
ペコっと頭だけでお辞儀すると
ジュン先輩もあごを出すようにお辞儀っぽいのを返してくれた。
エミはスマホを取り出すと、相談アプリを立ち上げ
昨日の看護師に「大変よかった」という意味の星3つを送った。