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木曜日の夜

「じゃあ、まずはかけたいレコード何枚か持ってきてね」

というひとことで、わたしはひとり自宅のレコード棚の前でしばらく考え込んでしまった。


「よし、このお気に入りのレコードにしよ~っと!」

と何枚か意気揚々とカバンに詰め込んだものの

「いや、ちょっと待てよ?わたしはこういう気分だったからこのレコードを持って行って流したとして、その場にいる人は全然この気分じゃなかった場合どうするの?流すときになって、わたし自身もこのレコードの気分じゃなかったらどうしたら良いの!?」

「うまくできなかったらどうしよう。初心者すぎて師匠たちの言ってること1ミリも理解できなかったらどうしよう。」

「持って行ったレコードがその場の空気と違いすぎた結果、場が白けたらどうするの!?」

「しかし、その場に合わせて臨機応変に対応してるDJってすげえな...」

などいろいろなことを考えすぎた結果、1回目のわたしの持って行ったレコードのチョイスは案の定散々だった。

まずは頭出しを上手にすることと曲の熟知が、いまのわたしに与えられた課題(初歩も初歩すぎる)

なわけだが、いままでそんなことを考えてレコードを聴いてきていないため、まずここですでに躓きかけている。


奥が深すぎるじゃないかDJ...なんて考えながら臨んだ2回目

「この選曲は全部テンポも似ているから、繋ぎやすいっしょ!イメトレしたし頭出しもできるはず!」

と試行錯誤して持って行ったレコードだが、結果はまぁ言うまでもない。(惨敗)


ひとり凹みながらとぼとぼと帰った訳だが、ふと帰り道に門下生の仲間たち(勝手に仲間意識を抱いている)やDJ先生が発した言葉を思い出した。

「自分がノリノリでたのしんでるときは、うまくいく気がします!」

「自分がここだ!と思う、気持ちいい1音を見つければ良いのよ」


あ~いまのわたしに足りないの、まずそれだわ。と思った。


いろいろ深く考えすぎてしまう故AIのように

正解の音はどれですか!?
正解の角度はどこですか!?
正解のタイミングはどれですか!?

となってしまい身動きが取れなくなるタイプだったからだ。


昔は特にそうだった。

①こうする
②これをこの角度でこうする
③最後にここを何センチくらいこうする

みたいに"すべてをメモに取らないと気が済まない"人間なのだ。


花の仕事を始めたときに、いちばん近くで教わった先輩は完全に感覚型の人間で

「どうゆう風に作っていますか?」

と、聞くといつも返ってくる言葉は

「ドーン、シュルシュル、フワッ、シャララン~みたいな感じ」

内心
言葉で位置とか何センチ右にずらすとか言ってくれや!

と思っていた。(生意気すぎ)

その先輩が作る作品がすきだったし、早く先輩のようにできるようになりたくて、その擬音語を理解できるようにひとり分析を重ねた。


しかし人間は変わるもので
花の仕事をずっと続けているうちに、いつの間にかわたしもそちら側の思考になった。

いま思うと
自分が後輩に伝えるときにも、そんな意味のわからない擬音語や自分にしかわからないような曖昧な言葉で伝えていたかもしれない...

だいたい調子が悪いときは、いろいろなことを考えすぎてしまい

「この横に、これ持ってきて、うしろを1センチ下げて、前にこの花で、この対角線上に...」

そういうときは作るものも、98%の確率でうまくいかない。

何も考えない(というのは言い過ぎかもしれないが)ときは、自然と完成形がイメージできているし、ドーン、シュルン、ここにチュルリンと来て、バーン!!ってしよ!などと勝手に手が動き

「おお!かわいくできたな!特にここのラインとか!あ~たのしかった~!」

ということがほとんどだ。

先輩の言葉で、わたしが花を触るときに大切にしている言葉がある。

「花がかわいく見えるならなんでも良いよ~一輪ずつそれぞれのかわいい角度やバランスを見つけてあげればそれで良いんじゃないかな~」



門下生仲間やDJ先生が言っていたことと一緒じゃないか!

なんだ、花と一緒じゃないか!(と思えば大丈夫だと言い聞かせてる)

すきな曲をノリノリで流したら、もうわたしだってDJだ!(強気)

今後DJの練習は、わたしが花を触るときと同じ感覚や気持ちで臨もうと決意。

そんなことを強く思った、今年の夏の始まりの夜だった。(いつになるのか遅咲きDJデビュー)


アナログDJノウハウを教えてもらえるのはもちろん

いまかけてるレコードめちゃくちゃかっこいいね!なんのレコード?
などと初対面の人と会話が生まれたり

凄腕DJたちの技や、季節に合わせた選曲をたのしませてもらったり

いろんなジャンルの音楽を聴きながら、人と話したり、お酒を飲んだり食べたり

ヒップホップも和モノもソウルもディスコもロックもジャズだって、老若男女たのしめる

これぞパーラー!街の談話室!としみじみ思った。

あの空間はきっとたくさんの人にとって、たのしい木曜日の夜になるに違いない。


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