互いの違いを受け入れながら「革職人」として働く。UNROOF|湯本 浩輔
障がい者雇用に向けた法的枠組みは年々整備されてはいるものの、まだまだ職業・職種の選択肢は少ない。2017年、「障がいがあるだけで仕事の選択肢が制限される社会を変えたい。」という思いから生まれた革製品ブランドが「UNROOF(アンルーフ)」だ。
一点一点丁寧につくられた本革ブックカバーや財布などの革製品は、お客様からの評価も高く、近年はYAMAP(ヤマップ)や中川政七商店など企業と共同でのものづくりも手がけている。
そのような取り組みが評価され今年1月、UNROOFは東京都認証「ソーシャルファーム認証事業所」に選出された。「ソーシャルファーム」とは、自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が、必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のことを指す。
今回は、自身も障がいを持ちながらUNROOFで革職人として働く湯本さんに話を聞いた。
障がいを理由に挑戦を諦めない「もう一度ものづくりの第一線へ」
元々絵を描くのが好きで、専門学校ではデザインやイラストを専攻し、卒業後は、念願のアニメ業界に入り、朝から深夜まで好きだった絵の仕事に没頭したという。
「周りからはブラックな環境だと言われましたが、ものづくりをできることに楽しさを感じていたので、全然苦じゃなかったんです。しかし、4〜5年が経った頃、目の障害が起こり、アニメの仕事を辞めることになりました。」
大好きだったものづくりの世界を離れることになった湯本さん。「つくる」のではなく、「教える」側になるのも良いかもしれないと一念発起し、武蔵野美術大学の通信制に通い始めた。
「すぐに美術教師になるのは難しく、スクールサポーターとして働いていました。スクールサポーターとは、学習の遅れや不登校、発達障がいといった生徒に勉強を教えたり、話を聴いたりしながらサポートする仕事です。さまざまな悩みを抱えながらも懸命に前を向いて進もうとする生徒と向き合っていく中で、自分の障がいについても考えるようになりました。障がいがあろうとなかろうと、やりたいことをやった方がいいのではないかと。」
医師からの助言もいただき、湯本さんは再びものづくりの道を模索する。しかし、転職活動はそう甘くなかった。求人媒体やエージェントを利用して、ものづくりの仕事を探しても求人はほとんど見つからない。伝統工芸の世界に飛び込もうとしても、年齢や経験的にも門前払いだったという。
「そんなときに出会ったのが、UNROOFの革職人募集の求人でした。障がい者雇用ではなく、『障がいを理由に挑戦することを諦めたくない』という考え方にとても感銘を受けました。革製品についての知識はゼロでしたが、面白そうだなと思い、飛び込んでみることにしたんです。」
未経験のスタートは失敗の連続、自己受容が成長の糧に
UNROOFで働き始めて4年。最初は、大きな革をパーツごとに裁断する仕事から始め、徐々にできる仕事も増えてきて、現在は製品の最終工程にも携わっているそうだ。そんな彼は、革という素材の奥深さに魅了され、今でも新しい発見や感動の連続だと語る。
「いろんなことに興味があり、何でもやってみようと思う自分の性格に、革という素材は合っていました。まだ経験も浅いですが、できることが増えていく日々が楽しいです。
現在、UNROOFには6人の革職人が働いています。それぞれ障がいの種類も違いますが、得意なことと不得意なことを理解し、役割分担しながら仕事をしています。僕と同じように、ものづくりが好きな方が多いので、皆さん集中して黙々と仕事をしていますね。」
未経験でのスタートは怖くなかったかと聞くと、「失敗するのは当たり前」という返事が返ってきた。
「上手くいったらすごく嬉しいし、失敗したら次はこうしようと思いながらやっています。できないことはできる人に「ここを教えてください」と素直に聞くことが大切だと思います。」
生の声がモチベーションの源泉、新たな挑戦への意欲
UNROOFの売りは、品質とデザインにこだわった最高のものづくり。最終製品をつくる上での責任と緊張感は一入だと話す。
「お客様の反応がレビューを通して直に届くんです。嬉しいコメントを見ると「もっと頑張ろう」と思えるし、厳しいコメントをいただけば、「どうやったら改善できるか」を考えるきっかけになっています。」
ものづくりの世界に戻り、生き生きと働く湯本さん。アニメ業界でできなかった商品開発にも携わりたいと精を出す。
「革職人として働き始めて、自然と新しいアイデアが湧くようになりました。今は、障がいに合わせた商品を作ってみたいなと思っています。例えば、障がい者手帳は少しサイズが大きいのでパスポートケースには入りません。障がい者手帳もパスポートも両方とも収納できる商品がつくれないかといった感じです。」
革職人としてのプロ意識、互いの違いを受け入れ、自分らしく生きていける社会へ
革職人になって、人がもっている革製品や店舗の商品に目がいくようになったという。ミシンの縫い方や金具の付け方など細部までみるそうだ。
「革は本当に奥が深いです。OEMの製品をつくる時は、革の特徴をつかむことから始めます。例えば、国産とイタリア産の革の場合、扱い方が異なり、デザインの想定通りにいかないことも多いからです。最初は苦労することも多いですが、「ここはこうなるんだ」「このアイデアいいな」といった発見があるので面白いです。
今後は、同じ業界の人とつながったり、多くの人にUNROOFを知ってもらうため販売に力を入れたり、チャレンジしてみたいことはたくさんありますね。」
最後に、障がいを持ちながら革職人として働くことについて聞いた。
「UNROOFで働いてわかったのは、障がいに対して本当にフラットであることなんです。「配慮はする。でも、特別扱いはしない」という感じ。
近年、障がいの有無にかかわらず配慮を必要としている人は増えていると思います。たとえ障がいをもっていたとしても、個人が望めば、普通に生きていける社会が日常になると良いなと思います。未だ、偏見のようなものはあると思いますが、一人ひとりの違い(個性)をお互いに受け入れ、楽しむ方向にシフトできれば良いなと願います。」
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