前橋【エッセイ】

風が強い夜だ
広い変な色の空だ
前橋のホテル
駐車場が満杯
何という車社会!
文学館
あそこに朔太郎が居るんだって
夜の七時
明日は朝早くにここを発つ
家にはないほどの大きさの鏡に
自分の丸い顔が溶けた、違う
ファンデーションがよれよれなの
もう、マスクをとっていいらしい
朔太郎
どうやら顔もあやふやで
現代人をやっています

テカる顔に鼻毛生え、
鼻毛が生え、
脇には脇の毛が生え、
毛がしだいにほそらみ、
穴の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるえ。

かたき肉に毛が生え、
乳にするどく毛が生え、
まつしぐらに毛が生え、
凍れる節節りんりんと、
小さな宿舎に毛が生え、
毛、毛、毛が生え。

わたしねえ、
いっぱいに毛が生えていた
文学館に寄りたかったな

戻ったよ、わが愛猫
なんだ、君
顔も体もとにかく
毛むくじゃらじゃないか
そんな調子で
よく、飯だなんて鳴いてるなあ

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東京花束
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