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DJ Boonzzyの第67回グラミー賞大予想#1〜ポップ&コンテンポラリー・インスト部門

やっと手が付きました。毎年この時期(例年はもう少し早くから)にお届けしているグラミー賞各部門の予想ブログ、今回は昨年からの自分の病気の治療でスケジュールが公私共にかなりタイトだったことと、病気前のようなパワーで書き飛ばす勢いがなかなか作れなかったこと、更にはここ数年やってた、音楽評論家の吉岡正晴さんとのグラミー予想トークDJイベントも中止になったこともあって、とうとう授賞式(日本時間2月3日月曜日)まで2週間を切っての執筆開始となってしまいました。楽しみに待っていた方(そんな人いるんかな)ごめんなさい。そんな状況なんで、去年までは56部門予想してたんですが、とてもそんな時間的余裕はなさそうなので、今年は36部門何とか授賞式当日までに予想ブログをアップできれば、と思ってます。頑張ります。ではまず最初に今回のグラミー賞と授賞式について簡単に見どころというかポイントを。

0. 今回のグラミーのポイントと見どころ

* ロス大火の影響

皆さんもご存知の通り、今月7日にロサンゼルス一帯で発生した山火事が現在も完全に鎮火されておらず、この間ハリウッド付近に住むセレブ達の住居も被害を受けて、パリス・ヒルトン、ビリー・クリスタル、ボブ・クリアマウンテンなどが住居を焼失してえらい騒ぎになってます。これを受けて「そもそもこれだけの被害が出てるのに授賞式なんかやるべきなのか」という声が業界有力者から上がっていて、事実業界の有力アーティストマネジメント会社、ミルク&ハニー社の社長は毎年業界関係者を招待するパーティーをキャンセルすると発表し、「こんな状況で何か祝うなんて考えられない。他の業界関係会社も祝い事はキャンセルすべきだ」と発言、事実これにフォローする形で、ユニバーサルやワーナー、ソニー・ミュージック、BMG、そしてビルボードもグラミー関連イベントやパーティの中止を決めてます。
しかし、グラミー・アカデミーのハーヴィー・メイソンJr.会長はそんな中でも授賞式は実施すると明言、むしろLAのモラルを維持するために、音楽の力で傷ついた人々を癒やすというテーマを全面に出して決行するようです。それでも批判は出ているようですが、少なくともコロナ禍の2020年授賞式に匹敵するくらいの、ムードの異なる授賞式になりそうです。ちなみに有名なクライヴ・デイヴィス主催のプレ・グラミー・パーティーも、今年は「プレ・グラミー・ファンドレイジング・イベント」と名前を変えて、LA山火事被害者へのチャリティイベントとして開催するようですね。

* 今年も司会はトレヴァー・ノア

Trevor Noah

そのコロナ禍期にMCを担当し、軽妙な語り口で巧みに難しい授賞式をこなしたコメディアンのトレヴァー・ノアが今年もMC担当、これで5年連続MCとなります。5年連続は54〜58回まで担当したLLクールJ以来の長期連続MC担当で、コメディアンとしては32〜33回および35〜36回担当のゲイリー・シャンドリングを上回る最多MCで、歴代でも7回のアンディ・ウィリアムス(13〜19回)、6回のジョン・デンヴァー(20〜21回、24〜27回)に次ぐ3位タイということになりました。軽妙かつ嫌味のない知的な語り口が受けてるんでしょうね。ちなみに彼は今回自分のコメディ・アルバム『Where Was I』が最優秀コメディ・アルバム部門にノミネートされてて、もし受賞すれば、1980年第22回のMCケニー・ロジャースが最優秀カントリー・ボーカル・パフォーマンス部門を「The Gambler」で受賞以来の快挙、ということになりますがどうなりますか。

* ビヨンセ、6回目の挑戦で最優秀アルバム初受賞なるか

昨年指揮者のサー・ゲオルグ・ショルティを抜いて歴代最多受賞者(32回受賞)となったビヨンセですが、グラミー最高栄誉の最優秀アルバム部門では、これまで5回ノミネートされるもいずれも受賞を逃してます。2010年第52回では『I Am…Sasha Fierce』がテイラーの『Fearless』に、2011年第53回ではレディ・ガガのアルバム『The Fame Monster』のフィーチャード・アーティストでしたが、アーケイド・ファイヤの『The Suburbs』に、2015年第57回では『Beyoncé』がベックの『Morning Phase』に、2017年第59回では『Lemonade』がアデルの『25』に、そして2023年第65回では『Renaissance』がハリー・スタイルズの『Harry’s House』にとことごとくやられてるんです。特にアデルとの対決では受賞したアデルが「あなたの方が受賞すべき」と涙したり、ベックにさらわれた時はブチ切れたカニエがステージに乱入したりと、とかく事件がらみのビヨンセのアルバム受賞騒ぎ、今回2回目のテイラーとのマッチアップになりますが、何とカントリー・アルバムという変化球、しかし社会派的観点も備えた『Cowboy Carter』で見事悲願の初受賞なるか?

* 日本人ノミニー〜坂本龍一さん2回目の受賞なるか

今年は日本人ノミニーが例年より多めですが、中でも一昨年惜しくも亡くなった坂本龍一さんの最後のピアノコンサート映画『Opus』の音源アルバムが最優秀ニューエイジ・アンビエント・チャント・アルバム部門にノミネートされてるのが目を引きますね。自らの死を目の当たりにしながらひたすらピアノ演奏に打ち込む坂本さんの気迫が伝わってくるこの作品、1989年第31回『ラスト・エンペラー』での受賞以来の2回目の受賞となることを祈ってます。
今回坂本さん以外では下記の4名の方がノミネートされてますね。あと、日本人ノミネートではないですが、最優秀映像作品スコア・サウンドトラック部門に、エミー賞で史上最多18部門を受賞、先日のゴールデン・グローブ賞でもTVドラマ部門で主要4部門受賞した『Shogun』もノミネートされてます。ノミニーの一人がナイン・インチ・ネイルズアッティカ・ロスというのが日本作品の実質的な国際化を象徴しているようでなかなか感慨深いものがありますね。

◯ 宅見将典さん:最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス部門に『Kashira』 (Masa Takumi featuring Ron Korb, Noshir Mody & Dale Edward Chung)でノミネート。宅見さんは一昨年第65回で、最優秀グローバル・ミュージック・アルバム賞を『Sakura』で受賞しており、2回目の受賞期待。
◯ 袴塚愛音さん(NY在住のソプラノ歌手):最優秀クラシック合唱パフォーマンス部門にノミネートの『Sheehan: Akathist』の合唱隊のメンバーとして。
◯ 倉嶌隆広さん(グラフィックデザイナー):最優秀ボックス・スペシャル限定パッケージ部門で、ベルリン在住の韓国人女性クラシック作曲家の陳銀淑(チン・ウンスク)ベルリン交響楽団との作品のパッケージのアート・ディレクションで初ノミネート。
◯ 高山明美さん(バイオリニスト):ロシア人ソプラノ歌手、フォティーナ・ナウメンコの作品『Bespoke Songs』の演奏メンバーとして、最優秀クラシック・ソロ・ボーカル・アルバム部門にノミネート。

* 当日パフォーマンスのラインアップも続々アナウンス

グラミーといえば誰が授賞式でパフォーマンスするかに興味が集まりますが、既にベンソン・ブーン、ビリー・アイリッシュ、チャペル・ローン、チャーリXCX、ドーチー、RAYE、サブリナ・カーペンター、シャキーラそしてテディ・スウィムズらノミニー達のパフォーマンスがアナウンスされてます。
そして毎年前年に亡くなった大物アーティストのトリビュート・パフォーマンスが行われることが多いですが、今年は昨年大往生したクインシー・ジョーンズのかなり盛大なトリビュート期待ですね。

とまあ、今年のグラミーもいろいろ見どころありそうですが、そろそろ予想の方に入らないと本当に時間切れになりそうなのでとっとと行きます。まずはポップ部門から。

1.最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス部門

  Bodyguard - Beyoncé
◯ Espresso - Sabrina Carpenter
  Apple - Charli XCX
◎ Birds Of A Feather - Billie Eilish
✗ Good Luck, Babe! - Chappell Roan

今回のグラミーは、ビヨンセVSテイラーVSビリー・アイリッシュという3大女性スターの激突に加えて、チャーリXCXサブリナ・カーペンターチャペル・ローンなど新進の女性アーティストが多数入り乱れてガールズ・バトルの様相を呈してますが、それだけに例年よりなかなか予想がムズいですねえ。この部門だってビヨンセの名前があれば普通なら文句なし◎でしょうけど、今年ばかりはそうでもない。で、毎年グラミー予想で自分が立ててるその年のテーマですが、今年は「ビヨンセが主要部門で面目を果たす一方、テイラーよりもビリーが強い」というもの。アルバムの出来も正直テイラーの『TTPD』よりビリーの『HMH&S』の方が遥かに上だと思うし。

なので、ここは本命◎ビリー(楽曲自体も思いっきりポップに振り切った潔さが素晴らしい)、対抗◯と穴✗は今年のポップ・シーンを大いに盛り上げた二人、サブリナチャペルしかないでしょうね。正直どっちが◯でどっちが✗でもおかしくないですが、プロデュースに昨年まで3年連続最優秀プロデューサー受賞のジャック・アントノフがついてるってことで◯はサブリナに付けました。

2.最優秀ポップ・デュオ・グループ・パフォーマンス部門

  us. - Gracie Abrams f/ Taylor Swift
✗ Levii’s Jeans - Beyoncé f/ Post Malone
  Guess - Charlie XCX & Billie Eilish
◯ The Boy Is Mine - Ariana Grande, Brandy & Monica
◎ Die With A Smile - Lady Gaga & Bruno Mars

あはは。実はガガブルーノの「Die With A Smile」が去年の9月にリリースされた時、「おいおい、これって『スター誕生』の「Shallow」と同じパターンじゃないの」と思ったもんです。「Shallow」もグラミーの対象期間クローズギリギリにリリースされて、翌年のSOY、ROYそしてこの部門にノミネートされるという、滑り込みノミネートのパターンで明らかに「狙ってる」感があったもんです。ROYとSOYはあっと驚くチャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」が掻っ攫って行くという凄い展開でしたが、きっちり「Shallow」はこの部門受賞してました。で今回もグラミー対象期間ギリギリのリリース、デュエットの王道バラードというまんま同じパターンもうこれは◎以外の何者でもないでしょう。正直、今回はSOYにもノミネートされてますがそっちも持って行くのではないか、というくらい素晴らしい楽曲のクオリティでもあるので、これはもう決まりだと思います。

◯対抗ですが、今回のグラミーで個人的に解せないのは、ハウスを中心にしたダンスビートを基調にした久しぶりに素晴らしいポップ・アルバムを出してくれたアリアナが主要部門でガン無視されてること。ビートルズアンドレ3000とかをノミネートするなら、ROYで「yes, and?」、アルバムで『eternal sunshine』ノミネートしてもいいんじゃないの?と個人的には思うんですがどうでしょう。その抗議もこめて◯対抗はアリに。穴✗はさすがにビヨンセにポップ部門で無印、というわけにもいかないのでポスティとのデュエットのこの曲に付けておきます。

3.最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム部門

◯ À Fleur De Peau - Cyrille Aimée
◎ Visions - Norah Jones
✗ Good Together - Lake Street Dive

  Impossible Dream - Aaron Lazar
  Christmas Wish - Gregory Porter

去年に続いて今年もこの部門の受賞常連組、マイケル・ブブレ故トニー・ベネット翁、ウィリー・ネルソンといったあたりが不在な中、いやでも光ってるのはノラジョン。今回チャートでは168位とキャリア最低位と振るわなかったけど、内容的にはさすがの安定の出来だし、まあ本命◎で順当でしょう。

それよりもちょうど10年前に『Bad Self Portrait』でぶっ飛んで以来自分の贔屓バンドであるレイク・ストリート・ダイヴがメジャー系のナンサッチ・レーベルから離れてファンタジーに移籍、前作に続いてマイク・エリゾンドのプロデュースの新作で今回グラミー初ノミネート!ということで普通なら彼らに対抗◯付けるところなんですが、今回のアルバムは前作よりは抜けた感じではあるものの、彼らの最高の出来、というわけでもないなあ、と思っていたら、シリル・エイミという聞き慣れない名前のアーティストがノミネートされてるのに気が付いて、これ聴いてみたら何と素晴らしいんですわ。フランス人の基本ジャズ・シンガーなんですが、エレクトロなサウンドも散りばめながらのコンテンポラリーなスタイルが素晴らしい。小鳥がさえずるような歌声もいいし、アイズレーの「For The Love Of You」なんて洒脱に歌いこなしてるあたりに痺れました。なので対抗◯はシリルに、LSDには穴✗で勘弁してもらうことにしましょう。

4.最優秀ポップ・ボーカル・アルバム部門

  Short n’ Sweet - Sabrina Carpenter
◯ Hit Me Hard And Soft - Billie Eilish
✗ Eternal Sunshine - Ariana Grande

  The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan
◎ The Tortured Poets Department - Taylor Swift

いやいやいや。この部門、去年も主要部門にノミネートされた作品が3つ並んでバトルロイヤル状態だったけど、今年は5作品中4作品が最優秀アルバムノミネート作品という極限状況。しかも残る1枚は本来主要部門ノミネートされてておかしくないアリのアルバムと来てるからさあこの部門の予想は頭が痛いところです。でも、全体の今年のシナリオは「今年はテイラーは弱めでビリーが強い」というものなので、主要部門はビリーが取って、この個別ジャンル部門はテイラーが取って痛み分け、というのがシナリオじゃないかな。ということはこの部門は本命◎はテイラー対抗◯がビリー。ただ、去年はこの部門も主要部門も両方アルバムをテイラーがさらってるから若干不安ですが。

で穴✗ですが、今年のポップ・シーンを盛り上げてくれた新風二人、サブリナチャペルどちらか、ということでもいいんですけど、やっぱり自分はアリに花を持たせてあげたいな、ということでここはアリアナの『Eternal Sunshine』に付けさせて下さい。

5.最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバム部門

✗ Plot Armor - Taylor Eigsti
◯ Rhapsody In Blue - Béla Fleck

  Orchestra (Live) - Bill Frisell f/ Alexander Hanson, Brussels Philharmonic, Rudy Royston & Thomas Morgan
  Mark - Mark Guiliana
◎ Speak To Me - Julian Lage

今回この部門にノミネートされてる2組のアーティスト、バンジョーの大御所ベラ・フレックと、21世紀を代表するジャズ・ギタリスト、ジュリアン・ラージは、昨年もノミネートされて激突してまして、昨年はベラ・フレックの『As We Speak』がジュリアン・ラージの『The Layers』を押さえて受賞してます。ただ『The Layers』は6曲入りのEPで、全編アコギによる小品集、といった趣の作品だったということもあり、今年はアコギとトレードマークのテレキャス両方を駆使して、メディアからも評価の高い(メタクリティックで91点!ジュリアンがようやく7回目のノミネートで初受賞するのでは、というのが自分の見立て。なので本命◎はジュリアンで、対抗◯は何とあのガーシュインの有名曲を、ブルーグラスで、はたまたオーケストラベースでと3種類のスタイルの異なるカバーに挑戦したベラ・フレックの意欲作に付けましょう。

穴✗は、2022年第64回のこの部門を『Tree Falls』で受賞している、15歳の時から(現在40歳)スタンフォード大のジャズ・ワークショップの講師を務めてるという、天才ジャズ・ピアニスト、テイラー・アイグスティのアルバムに付けておきます。

ということで何とかスタートした今年のグラミー賞各部門予想、何とか頑張って今度の週末までに形を付けたいと思います。次はダンス+エレクトロニック部門です。

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