レコードとオーディオ好きにオススメのスゴい本ご紹介〜「ヴィニジャン〜レコード・オーディオの私的な壺」
今週の月曜日5月25日、ちょうど緊急事態宣言解除の日、音楽ライターの田中伊佐資さんのムック『ヴィニジャン〜レコード・オーディオの私的な壺』が音楽之友社さんから発売された。このムック、田中さんが月刊誌『stereo』に連載している「ヴィニジャン〜アナログの壺〜」というコラムを2017年1月号分から今年の5月号分まで収録したもの。
実は田中さんとは3年ほど前にある方の紹介でお近づきになり、幸運にも田中さんがMCを務められている、東京FM系の衛星デジタル放送、ミュージック・バードの番組にお招き頂いて以来、つかず離れず的にお付き合いさせて頂いている。今回、このムックに掲載された2018年11月号分のコラム『このレコジャケTシャツ私は着たい』に不肖自分の記事も掲載して頂いたご縁で、今回の発売のご案内を頂いたので、今日はこの際このムックをここでご紹介してしまおうという趣向。ちなみに「ヴィニジャン」というのはヴァイナル(=レコードのこと)とジャンキーを合成した造語、すなわち「レコキ○○イ」ということでまあ、自分にはうってつけだなあ、などと実はこの言葉に秘められた恐ろしい意味も知らず(笑)納得していたのだった。
何が恐ろしい意味なのか。上記のように私が参加した回のコラムは割とお気楽なテーマだったので、このコラムの他の号の内容は実は今回ムックで拝見するまでよく知らなかったのだが(汗)、一読して「いや、これは大変なものに関与させて頂いたな」というのが正直な感想。何しろこのコラムに登場する方々というのが、レコードやオーディオに対するこだわりたるや尋常ではない方ばかりなのだ。
ザ・バンドの名盤をマトリクス番号違い、レーベルの記載違いごとに何枚も同じアルバムを集めている、なんてなのは自分も似たようなことしてる覚えがあるのでさほど驚かないのだけど、それでもセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!! (Never Mind The Bollocks: Here's The Sex Pistols)』(1977)の各国盤をマトリクス違いも含めて70枚以上(写真で確認した限りw)集めている紙ジャケ探検隊の真保さんのコラムには恐れ入った。知り合いでスティーリー・ダンの『彩 (Aja)』(1978)を同様に集めておられる方がおられるけど、その上を行ってるな、と。
でもそんなのはまだ序の口。もっとぶっ飛んだのは、レコードそのものよりも、それに関するありとあらゆる側面を信じられないくらいの深さとオタク度(失礼)で「そこまでやるのか!」というくらい掘り下げている方々。
レコードの溝を目で見て音の違いや、さらにはカッティング・エンジニアの仕事ぶりを評価する方、若い音楽ファンだとまず知らないだろう8トラックテープの収集家(しかもご自分でテープカートリッジの修理メンテまでやっちゃう!)、毎月100個以上のヴィンテージのカートリッジを買い集めるカートリッジ命のサウンドマニア、はてはプレイヤーアームの導線を100年以上前のヴィンテージケーブルとハンダの組み合わせで音の違いを聴かせてくれる御仁などなど、オーディオマニアの域を超えて遙か彼方に行っちゃってる方々(尊敬の言葉です)がずらずらと登場してもうただただ圧巻。
ここまで読んできて、ハタとある方のことを思い出した。自分の地元国分寺の美術協会の会長を務められておられる洋画家の伊庭野肇先生だ。家内が国分寺のコミュティ活動団体の代表をやってる関係で、数年前に地元で毎年春秋に開催されるギャラリー・ウォークというイベントに関わった際に「もの凄いオーディオマニアの先生がいるよ」と紹介してもらって以来、先生のアトリエ兼オーディオルームで不定期にレコードイベントをやらせてもらっているのだが、この先生のオーディオのこだわりがまた凄い。ステレオとモノ用のアーム2本付の重厚なターンテーブル(ガラードだと思ってたらHanss社製)やヨーロッパ製の大型スピーカー、自作の真空管アンプなどはもちろんのこと、自前のトランスや都内某ジャズバーから安くで譲り受けたというレコード洗浄機、そして極めつけはRIAAを初め主要イコライジング・カーブをダイヤル一つで切り替えられる自作機器など、ボーズのなんちゃってシステムで聴いてる自分には到底手の届かないような素晴らしいシステムなので、ここで持参のレコードをかけてしまうと自宅ではしばらく聴けない、というくらいのもの。
この田中さんのムックにもイコライジング・カーブを切り替えて聴かれる方が登場したが、今度伊庭野先生のイベントの際には是非田中さんをお誘いしてみよう、と思い立ったのだった。田中さん、いかがですか?
とはいえ、デノンの名カートリッジDL−103の歴代対決記事といった普通のオーディオファンでも気楽に読めるものから、レコード・カッティング・マシーンの話、そして台北やニューヨーク、ハワイ、中央線沿いでのレコード屋回り(自分がNYで何度も行ってるGeneration Recordsが登場してて、妙にうれしかった)など、普通にレコードマニアであればほのぼのと読める企画も満載で、レコードやオーディオに興味のある方であれば充分楽しめる内容。自分としてはTシャツ企画であのみうらじゅんさんと同じ記事内に掲載させてもらったことが密かな喜びだったりしてます。いずれにせよ、緊急事態宣言解除後のレコードや音楽探求活動のお供に、オススメの一冊ですよ。
ONTOMO MOOK stereo編
「ヴィニジャン〜レコード・オーディオの私的な壺」田中伊佐資 著
音楽之友社 2020年6月1日発行
定価 2,300円+税
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