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本屋を始めて、もうすぐ2年。

5月30日、今月の最後の営業日が終わった。熊本市で「scene」という個人書店を始めてもうすぐ2年、これまでひそかに掲げ続けていた目標を、今月ようやく達成することができた。
その目標とは、「1ヶ月通して、すべての営業日に売上を立てること」だ。1ヶ月間、店を開けた日に、1冊でも良いので必ず本を買ってもらう。我ながらショボすぎる目標だけど、それすら達成するのに2年近くかかってしまったというのだから、本当に呆れる話だ。
言い換えると、これまで店を開けても1冊も本が売れない日が、月に1日以上のペースで存在していたということだ。鍵を開けて、来店客を迎え入れる準備をしてオープンしたのに、誰も来ないまま閉店時間を迎え、鍵をしめて帰路につく。そんな虚しい1日が、これまで何度も何度もあった。


2022年7月にオープンした頃は、平日は別の仕事をしながら店を開けていて、月曜から木曜は18〜22時、金土日や祝日は11〜19時、定休日は隔週の金曜日という営業スタイルだった。
あまり立地が良いとは言えない場所で、平日の遅い時間から4時間だけしか開いていないとなれば、誰も来ないで終わる日があるのも当然。1日2日そういう日があってもそこまで落ち込むことはないけれど、そういう日が何日も積み重なっていくと、平静を保ち続けることは難しくなってくる。
一番ひどかったときは、3日間連続で誰も来なかったということがあった。さすがに辛くなってその翌日は営業を休んでしまった。平日はもちろんのこと、土日や祝日に「ゼロ」で終わる日もあった。それも1回や2回ではないし、何なら最近もあった。思い出すだけで具合が悪くなる。


その後かけもちの仕事をやめて、紆余曲折あって今年の3月から営業時間を毎日12〜21時に変更。そこまでやってようやく「売上ゼロ」の日を無くすことができた。
もちろんこれだけを目標にしてきたわけではない。大事なのはトータルの売上高であって、なんなら短期間に集中して売上を稼げたほうが効率が良いのだけど、ちょっとしたことで落ち込んでしまいがちな自分にとって、営業日に売上がゼロになってしまうと仕事のパフォーマンスに如実に影響してしまうので、できれば安定して毎日売上を出せるようにしたいなと思っていた。


こうして約2年越しに、念願の目標を達成できたものの、達成感は正直あまりない。「今まで達成できていなかったことが恥ずかしかった」という気持ちのほうが強い。
今日は全然駄目だなというとき、「売上が悪い」みたい投稿をしてしまったり、他のお店でそういった投稿をしていないか探してしまったりと、ついSNSに慰みを求めてしまうことがある。
そこで「今日の売上は最低記録を更新しそう」みたいな投稿を目にすると、「もうこれ以上更新しようのない最低値をすでに記録しちゃってるんだよなぁ」とさらに卑屈な気持ちになってしまっていた。
今月毎日売上を作れたからといって「売上ゼロの日があった」という事実が消えるわけではないし、今後またそういう日が訪れる可能性はいくらでもあるのだけど、少しは気持ちが前向きになれる出来事があったことは喜ばしいことだ。


5月は、新聞への掲載とテレビ出演をさせてもらえた。同じ熊本市内にある創業150年の老舗書店「長崎次郎書店」の休業が発表されたことがきっかけであって、自分がなにかしたわけではないけれど、今月来店してくれた方の何人かは、メディア露出のおかげだったと思うので、とてもありがたかった。
19日には、熊本のブックフェスティバル「本熊本」の関連イベントとして、うちを会場に個人書店について語る鼎談を開催させてもらった。古本市のような催事にも出店させてもらう機会が増え、熊本の書店の仲間入りができたかなと少しずつ実感できるようになってきた。

6月は、久しぶりに店内で展示イベントを開催する。椎猫白魚さんという作家さんのかわいらしい陶器製のフラワーベースなどが並び、いつもより賑やかな店内になる。


以前から準備していた、新作のオリジナルTシャツも6月から販売する。店舗の2周年を記念して作ったものだ(オープンは7月だけど、Tシャツなので前倒しで販売)。

去年の今頃は、「1周年記念」なんてとても考えられるような状況ではなく、存続できるか不安しかなかった。直近でも2ヶ月前に店舗の上階から水漏れが起きて本が濡れてしまったりと、危機的状況は何度もありながらも、なんとか続けることができている。

今月売上がゼロの日がなかったとは言え、経営面ではいまだ七転八倒という状況も変わりない。一番売上が悪かったのは12日の日曜日で、1冊しか売れなかった。トータルの収支もマイナスだったし、改善しないといけないことは山のようにある。
それでもなんとか続けられたのは、本を買ってくれる人がいたからに他ならない。

ふだんから店舗や通販を利用いただいている方に、改めて感謝の思いを伝えたい。この2年でたくさんの方に知ってもらい、自分や店のことを気にかけて頂いていることを、本当にありがたく思っている。

書店を開き、続けているということは、人からすれば「羨ましい」とまで思ってもらえるような、とても貴重な体験だ。自分にとって本屋は色々な偶然が重なって、たまたま始めたようなところもあり、実際やってみて味わったのは苦労のほうが多かったけど、2年かけてようやく自分の仕事を少しは前向きに考えられるようになってきた。

自分で作った居場所を自分で守る。そのためにできることを、これからも続けようと思う。


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