レティシア書房店長日誌
カーソン・マッカラーズ/村上春樹訳「哀しいカフェのバラード」
村上春樹は、マッカラーズの「心は孤独な旅人」「結婚式のメンバー」の2作品を翻訳していて、本作品が3作目です。「哀しいカフェのバラード」は、前二作よりもかなり短い小説です。マッカラーズを読むなら「心は孤独な旅人」をまず読むべきだと思うのですが、とにかく長い。そして暑苦しい。この小説を映画化した「愛すれど心寂しく」を観て感動して、原作に挑戦したのですが、挫折したという経験があります。その点、本作は短いけれどもマッカラーズの本質がよく出ていると思います。(新刊/2400円)
「マッカラーズの小説が描く世界は、決して明るく幸福なものではない。彼女の小説に出てくる登場人物たちの多くはそれぞれの異様性を背負い、それぞれの痛みに耐え、それぞれの出口を手探りで懸命に探し求めている。しかし多くの場合、その出口は見当たりそうにない。とはいえ読者は、そこにいくばくかの救いの示唆を読み取ることができるだろう。それは絶望の暗闇の中の一条の明かりとでもいうべきものだ。」と春樹は書いています。だからこそ、映画化された「心は孤独な旅人」のラストに涙したのだと思います。
さらに春樹は続けます。「しかしこの『哀しいカフェのバラード』にはどうやら、そのような救いの予感は用意されていないらしい。登場人物たちはみんなそれぞれに深い業のようなものを負っており、どのように懸命に試みてもそれを取り除くことはできそうにない。」
いやもう、どこにも救いのない小説なのですが、取り込まれたら離れられない魅力があります。マッカラーズは南部の出身だけに、うらぶれた南部の町の描写が上手い。例えばこんな風に。
「翌日天候はがらりと一変し、暑さが戻ってきた。早朝でさえ空気は蒸し暑くべとついた。風が沼地の腐った匂いを運んできて、甲高い羽音を立てる華奢な蚊たちが、緑色の水車池を蜘蛛の巣のように覆った。まったく季節外れで、暑さは八月よりもまだひどく、それは多くの被害をもたらした。」
こういう中で繰り広げられる愛憎劇。孤独に生きる巨漢の女アミーリア、親戚と名乗りアミーリアの家に勝手に住み着くせむしの男ライモン、アミーリアの元夫で刑務所から戻ってきたマーヴィンの奇妙な三角関係が描かれます。アミーリアは、ひどく理知的であるかと思えば衝動的です。マーヴィンを理不尽に追い出し、厚かましいライモンを家に置き親切にもてなす彼女の心情が、なかなか理解できないかもしれません。戻ってきたマーヴィンとの乱闘。
「それは実に凄まじい光景だった。二人の深くかすれた息づかいだけが、カフェで聞こえる唯一の音だった。遂に彼女が相手を押さえ込み、馬乗りになった。彼女の力強い両手が相手の喉にかかっていた。」
そしてラストの、ライモンとマーヴィンの突発的な暴力行為には、読む手が止まりました。歪な愛憎で結び付けられた歪んだ人間関係の成れの果てを象徴しています。
「結局のところこの三人はそれぞれに深い欠落を抱え、業を背負い、矛盾に苦しみながらも、暗闇の中で必死にそれぞれの愛を求めていたのだ。その求め方の真摯さこそが、たとえそれが間違った悲劇的な方向に進むことになったとしても、この小説の確かな核心であったのだ」と春樹はあとがきで書いています。山本容子の銅版画が多く挿入されていて、こちらも見所です。
●レティシア書房ギャラリー案内
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ・手編み
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
12/11(水)〜12/22(日)「草木の色と水の彩」作品展
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
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