レティシア書房店長日誌
長田弘「食卓一期一会」
あまり詩集を読まない方なのですが、長田弘の詩集は愛読してきました。長田は1939年福島県に生まれます。早稲田大学在学中から詩を書き始め、第一詩集「われら新鮮な詩人」(65年)で注目され、散文集詩集「深呼吸の必要」(84年)で一気に読者を広げました。私もこの本で彼の作品にのめり込んだ記憶があります。詩人としてだけでなく、児童文学者としても活躍し、2015年75歳で亡くなりました。
「食卓一期一会」(古書/絶版1800円)は、彼の詩集の中でもユニークな一冊で、料理を巡るさまざなことを素材にしています。「包丁の使い方」「ぬかみその漬けかた」「ジャムをつくる」等々、お料理の本に登場するようなタイトルが並んでいます。
「ジャムをつくる」の詩は、
「イチゴのジャムもいいし、黒すぐりのジャムもいいな。ニンジンのジャムやリンゴのジャム、三色スミレのジャムなんかもいいな。」
と、お料理エッセイのような始まりです。こんな風に続きます。
「わたしが眠りの森の精だったら、もちろんネムリグサのジャム。もし赤ずきんちゃんだったら、オオカミのジャムをつくりたいな。
だけど、数字の一杯はいった 算数のジャムなんかもいいな。そしたら算数も好きになるとおもうな。いろんなジャムをつくれたらいいな。」
「算数のジャム」?数式を甘く煮たらどんな味になるのやら……..?
そして、
「『わたし』というジャムもつくりたいな。楽しいことやいやなこと、ぜんぶを きれいなおろし金できれいにおろして そして、ハチミツですっかり煮つめて。」と終わります。こんな詩を読んだ後には、ちょっと幸せな気分になってきます。
「テキーラの飲み方」では、お酒の飲み方の教本のごとく飲み方が丁寧に書いてあります。そして、後半はこうです。
「まっすぐに投げ入れるんだ。火搔き棒みたいに 咽喉にまっすぐ通すんだ。それがテキーラの飲みかたで、むやみに嘆息して 空を仰ぐばかりなんて愚だ。空を仰いできりりとテキーラをやる。 アミーゴ、アミーゴ
今日を嘆息してどうなるものか。 アスタ・マニャーナ(絶望は明日してもおそくない)」
食卓に常備して、料理の前に、あるいは食後の一杯の時に、一日の終わりに、ページをパラパラとめくってください。長田弘の詩には、人を幸せにしてくれる魔法が宿っていると思います。
●レティシア書房ギャラリー案内
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展