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レティシア書房店長日誌

石井千湖「積ん読の本」
 
 「私はできるかぎり、積ん読をしたほうがいいと思うんです。読んだ本のことは、ある程度わかります。読んだ本しか家にないということは、自分がわかっている世界しかないということですよね。そんなの、つまらないじゃないですか。読んでない本があると、世界は外に広がっている。未知の世界に自分が開かれているんです」
 とは、本屋「title」店主辻山良雄さんの積ん読に対する見解です。積ん読という言葉は、どちらかといえばネガティブに言いがちです。また、積ん読になるよ!なんて会話をよく耳にします。本書は、いやそうじゃないよ、と様々な人たちの書斎に著者がお邪魔して、話を伺い、それぞれの積ん読論を展開するという楽しい一冊です。(新刊1694円)登場する人たちの書斎の写真を眺めるだけでも読書好きにはたまりません。

 ちなみに登場するのは、池澤春菜、角田光代、柴崎友香、小川公代、しまおまほ、小川哲、管啓次朗、等々12名です。どの方の書斎も、もう最大限に積ん読状態になっています。池澤夏樹の娘で声優であり作家の池澤春菜の家は、積んだ本が玄関にまで侵入し、スリッパを収納した棚を開けることができなくなっています。(写真もバッチリ)
 本読みのスペシャリストである彼らの読書生活と、一般人の我々を一緒にすることはできませんが、それぞれのご意見はなるほどと唸らされました。
 ケアの価値を再評価した「ケアの倫理とエンパワメント」で、脚光を浴びた英文学者小川公代さんは「信じていただけないかもしれませんけど、本って生きているんです。ビオトープという概念があって........。本がどこかに行っちゃいましたね(笑)。私、本の入れ替えが常にゆるやかになされている仕事場の本棚をビオトープって呼んでいるんです」
 元々ビオトープという言葉は生物群の生息空間を意味する生物学の言葉です。それを小川さんは「本という生物と私が共存して交流する空間といえばいいでしょうか。ビオトープでさまざまな本とつながることで、私も成長しています。」と語ります。一つの仕事が終われば入れ替わってゆくという本棚が、ゆるやかに変化してゆく生態系みたいな感じなのかもしれません。
 詩人の管啓次朗さんは、「積ん読は恐れなくてもいい。本は読めないものだからです。僕なんて途中で読むのをやめた本も、背表紙しか読んでいない本もいくらでもあります」とズバリ言い切っています。「本は読めないもの」ってどういうことなんだろう?と思われた方は、ぜひ管さんの著書「本は読めないものだから心配するな」をお読みください。
 再び、本屋「title」店主辻山さんの言葉に戻ります。
「店にある本も、ある意味では積ん読と言えるかもしれません。新刊は毎日どんどん出ます。入荷した本のなかから一冊選んで、ホームページとSNSで紹介していますけど、売りものということもあって、読んでコメントを書いているわけじゃない。ただ、店に並べているのは、すべて私がいいと思って仕入れた本です。自分にとってよいものを内包した世界が重なって、何かしらの世界観をつくっている。家の本棚と違うのは、自分の関心が薄いジャンルでも、店に来る人が興味をもちそうなら置いていることです」
 なるほど、確かに我が店の本も積ん読状態です。それらが集まって発酵して、何らかのものを作り出している場所が居心地の良い本屋なのかも。

●レティシア書房ギャラリー案内
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ

⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)

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