レティシア書房店長日誌
橋爪太作「大地と星々のあいだで」
著者は、元々は社会学を専門とする学者でした。しかし、2011年の原発事故をきっかけに人類学へと転向し、メラネシア・ソロモン諸島で長期のフィールドワークを行なった人です。その調査研究で理解したこと、考えたことをもとに、気候変動とパンデミックに覆われた今を生きるための思考を、文化人類学だけでなく、哲学、科学、などの領域の知見を加えながら作り上げていきます。(新刊2640円)
「たとえ気候変動対策がすべてうまくいったところで、かつての安定した自然が帰ってくるのだろうか。実際には、近代以前の人類史でも、自然災害や異常気象により幾度となく多くの人命が奪われてきた。『自然と人間の共存』という言い方は、自然の立場を尊重し、過去への回帰を提唱しているかのように見えて、その自然を『四季の巡り』に象徴されるような、人間にとって都合の良い特定のイメージへと囲い込んでいる。そして、そのような文脈の前提となっているのは、人間は自然から分離した意識を持つ特別な存在であり、自然はあくまで人間に従属する環境であり続けるべきだという極めて近代的な信念である。」
確かに、私たちにとって自然は規則正しく穏やかな存在であり、だからこそ世界は安定しているものだとどこかで思っています。が、コロナ禍が世界を覆うとたちまちパニックになり、最先端だと思っていたわが国の医療制度は崩壊寸前まで追い詰められたのです。気候変動も異常気象も同じであり、自然は荒々しく暴力的なものなのです。
本書では、自然に対するこれまでの通念が通らなくなっている現状を、様々な現象、理論を通して明らかにしていきます。
「プラスチックが新しい地層になるとき」という第3章は衝撃的でした。遥か未来の人類が地面を掘り返すと、そこにあるのはプラスチックのような人工物が重なり合った地層を見つける。著者は、その時代を生きる人類にとってはそれが自然になるということを論じていきます。
興味深かったのは、第4章「『もののけ姫』を読む」です。著者の思考の中核をなす部分を宮崎のアニメを借りて文章にしているのです。
「『もののけ姫』の制作現場で生まれた裏設定の一つに、『コダマが数百年経つとトトロになる」というものがあるらしい。『となりののトトロ』で描かれた日本の原風景のような都市近郊の里山、あれも数百年前はシシ神を頂点とする原生林だったのかもしれない。シシ神を頂点とする古い生態系が一度崩壊し、その後にトトロを頂点とする里山が成立した。そんな推測もできるだろう。 原初の森の破壊の結果出来上がった『トトロ』の里山も、また一つの懐かしい自然である。あるいは、破局とは終焉と同義ではなく、普段は見えない『下』にある力が露わにされ、これまでの自然が別の何者かへとダイナミックに変身する瞬間でもあるのかもしれない。」
では、下にある力とは何なのか?それはこの章以降で深く論じられているので、ぜひお読みください。
●レティシア書房ギャラリー案内
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮りII」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)