レティシア書房店長日誌
坪内祐三「日記から 50人、50の『その時』」
2006年に毎日新聞に連載されていたものが、20年ぶりに書籍化されました。(新刊1980円)
連載するにあたって、著者は「五十回の連載で、登場させる人物を毎回変えて行く。そして、その原稿が載る紙面の日付の前後数日(できれば当日)の日記を紹介する。」というルールを決めています。膨大な量の日記を残した作家、例えば永井荷風も、夏目漱石も、三島由紀夫、柳田國男、武田百合子も、一回しか登場していません。
連載はこんな風になっています。2005年5月15日、高野悦子の日記(5月13日付)に、著者が解説していきます。高野はこの年、立命館大学3年になり20歳を迎えました。成人の日の日記で「『一人であること』、『未熟であること』、これが私の二十歳の原点である」と書き、これが彼女のベストセラー「二十歳の原点」のタイトルになっています。
9月25日には、武田百合子の「富士日記」(昭和51年9月21日)が登場します。
「今日も清し汁の半ぺんをおいしがって食べる。今日はねたきりで口の中へ養う。食べ方がうまくなった。」半ぺんをおいしがって食べている人物は、夫の武田泰淳です。この年の夏、彼は体調に変調をきたします。その少し前の8月22日の日記には「口述筆記しているうちに、主人めまいがして、窓のところまで何故かやってきて、しゃがんでしまう。それから私の頸のところに倒れかかってくる」とあります。そして10月5日、胃がんのため亡くなります。
著者はこう書いています。「『富士日記』は最初、文芸誌『海』の武田泰淳追悼号(1976年12月号)に、1976年7月23日から9月21日までの二ヶ月分だけが連載された。それをきっかけに作家武田百合子が誕生するのだ。」わずか3ページの短い記述で、作家武田百合子の誕生をリアルに伝えています。
あれ、この文章読んだ記憶がある!と思ったのは、10月16日に掲載された「植草甚一日記」(1970年10月19日)の一節です。
「早く寝たので九時半に起床。朝日に『ぼくは散歩と雑学が好き』の広告が出ているのでビックリ。晶文社としては初めてなんじゃないかな。」マイナー映画や、ミステリー評論、ジャズ評論家として60年代後半には一部の若者から熱狂的な支持を受けていたのですが、いよいよ70年10月に「ぼくは散歩と雑学が好き」が刊行されました。この本を読んだ一人である私は、新しいカルチャーの風をまともに受けました。マイナーな人物が、メジャーに浮上した瞬間でした。
本書では、50名の作家・小説家・評論家・政治家が登場し、著者が選んだ日に何を感じて過ごしていたのかが、鮮やかに蘇ります。
●レティシア書房ギャラリー案内
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮りII」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)