レティシア書房店長日誌
松本清張!
松本清張の名前を知らない人は、あまりいないと思います。社会派推理の巨匠として作品の映画化、あるいはTVドラマ化されたものを一つや二つはご存知のはず。私も「砂の器」やら「点と線」やら、学生の時には読みましたが、その後ばったりと読まなくなりました。
数年前、みうらじゅんの「清張地獄八景」を読んで、みうらの慧眼に驚いたことがあります。その頃からもう一度、清張を読み直そうと思っていましたが、清張没後30年記念で出ていた「初期ミステリ傑作選 なぜ『星図』が開いていたか」(文庫古書400円)を見つけました。
いやぁ、熱中しました!本書には、昭和30年代を時代背景にした短編が八編並んでいます。その中には、高峰秀子の主演で映画化された傑作「張込み」が収録されていました。映画と原作の違い、脚本家橋本忍の物語の広げ方などを知ることができました。未だ見ていない方は、原作を読んでから映画をご覧になることをお勧めします。
確か、みうらじゅんが、雑誌に「清張読んで我が振り直せ」という名文を書いていました。これは、愛人を作ったり不倫をしたりすると必ずバレるということを、清張作品で知ったということなのです。「張込み」もそうですが、夫がいるのに愛人がいる、あるいはその逆のパターンが作品によく出てきます。そのせいで当事者たちの運命が絶望的になってゆく様がリアルに描きこまれています。昨今の、物理的に不可能なアリバイ作りや、単純なキャラクター設定のサスペンス小説とは比べものにならない深みが清張にはあるのです。
もう一つ、清張作品の情景描写、背景の説明がしっかりしていることも、今回理解しました。「声」という短編に、武蔵野を描いた文章があります。
「東京都北多摩郡田無町といえば、東京郊外も西のはずれで、西武線で高田馬場から四十五分もかかる。中央線からも離れているため、何となく田舎じみた町だが、近ごろの東京都の人口過剰の波はこの辺にも押し寄せてきて、最近では畑地がしだいに宅地に変わって、新しい住宅が建つようになった。
このあたり一帯は、まだ武蔵野の名残りがあって、いちめんに耕された平野には、ナラ、クヌギ、ケヤキ、赤松などの混じった雑木林が至る所にある。武蔵野の林相は、横にはっているのではなく、垂直な感じで、それもひどく繊細である。荒々しさはない。 『林といえば松林のみが日本の文学美術の上に認められていて、歌にも楢林の奥で時雨を聞くというようなことは見あたらない』と言って、独歩は武蔵野の林の特色を最初に認めた。」
こんな文章が、随所にあります。もちろん、ミステリにおける伏線の張り方にも唸らされます。もう一冊「初期ミステリ傑作選2 空白の意匠」(古書400円)も入荷しました。
●レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日) 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)